『面白い爺さんだな。』
今朝は調子が良いからと
『ああ、そうだ。紹介がまだだった。』
真舌は菊の肩をそっと抱き寄せる。
『晴れて俺の恋人になった
菊は微笑を浮かべて頭を軽く下げる。よく見ると色が白く綺麗にまとめられた髪が一筋はらりと首元に落ちている。いかにも真舌好みで、今までの女と少し違うのは纏った雰囲気だろうか。
『よろしくお願いしますね、続木さん。』
彼女は
『ああ、よろしく。それで、本当にこいつで良いのか?』
雪久が酒を飲み笑うと、菊は口元に手を当ててうーん、と首をかしげた。
『どうでしょうね…真舌さんは女たらしですから。私以外にもちょっかいかけては振られてますし。』
『ちょっ!そんなことないよ!菊ちゃん一筋なんだって。』
慌てて真舌が声を上げると菊は少し顎を上げて視線を下ろした。
『あらあら…慌てて。』
その顔が好きなのか真舌の顔色が変わりごくりと唾を飲んだ。
『菊ちゃん…勘弁してよ。本当に…駄目。』
菊は真舌の敗北宣言を聞き、フフフと笑う。
『そうね、さあ、軽いお食事でもなさって。』
机に置かれた重箱を開いて小皿に取り分けると二人の前に置いた。
重箱には色とりどりのおかずや小さめの握り飯が詰められている。
『凄いな、一人で作ったのか?』
雪久の問いに菊はフフと笑い頷く。
『お料理は好きなの。それに真舌さんは食が細いわりには美味しそうに食べてくれるから作りがいがあります。』
『そうか…なんだかすでに尻に敷かれているがお前大丈夫なのか?』
真舌に視線を移すとまんざらでもなさそうに苦笑した。
『まあね。菊ちゃんならいいさ。』
確かに真舌の言うとおりだ。甲斐甲斐しい様子はどこか母親のようでもあり姉のようでもあり不快感はない。そして匂い立つような姿は初対面の男からすればドキリとしてしまうだろう。
珍しいなとも思う、昔から知っているがこのような人を選ぶような男ではなかったが、心境の変化だろうか?
重箱の底が顔を出し、酒が空になると真舌は幸せそうに菊の膝に寝転んだ。
雪久は胡坐をかき膝に頬杖をつくと酒を飲む。
膝の上に置いた真舌の頭を優しく撫でて菊は顔を上げた。
『ねえ、続木さんは恋人はいらっしゃらないの?』