『うん?』
『いえね…この人、
『で、いらっしゃるの?』
雪久は酒を飲み、手酌で酒を注いだ。
『そうだな…今はいないな。』
『もったいないわね。こんなに素敵な方なのにね。皆見る目がないのかしら。』
菊はフフと笑う。
『うーん、どうだろうなあ。今は仕事も忙しいってのもあるんだけどね。』
『そうなの?なら尚更ね。さっき話してらした縁談もお考えになっては?』
そう言われてふと
『いや…ないかなあ。』
『そう、でも今思った人ではなくても幾つかと先生は仰ってたんでしょ?なら見てみるのもありよ?』
雪久は後ろに手をつくと苦笑した。
『それは…えらくおせっかいではないのか?』
菊は微笑むと両手をぱちりと合わせた。
『フフ、おせっかいは女の特権ですわよ。』
そう言われて悪い気がしないのは菊だからだろうか。
『なるほど。』
『でも…聞いてもいいかしら?』
『うん?』
『
言葉を濁して菊は苦笑した。
『…少し、女をある意味で選んでいない気がして。』
雪久は指で頭を掻くと俯いた。
『ううん…なんて答えたらいいんだろうな。確かにそのような節はあるかもな。以前、勧められた縁談を受け入れて結婚も考えていた。でもどこか他人事で、彼女が欲しいものすらみつけられずに破談になった。』
『まあ…。』
『どこか興味が持てなくて…ああ、女性としてではなくてね。人として。』
初対面に近い菊にする話じゃないと思いつつも、口が滑る。
『勿論、肉体関係を持つことだって可能だ、でもそこに感情が持てなくてね。』
『そう…そういうこと。続木さんはもしかしたら恋がしたいのではなくて?』
『恋…か?』
『そう、ありきたりなものではなく燃えるような恋。だから今は相手を選ばないのかも知れないわね。』
菊は破顔すると両手をぷるぷると振るわせた。
『そんな気がしただけよ?どうか気を悪くしないでね。』
『フフ、菊さんは優しい人だね。少し考えてみるよ。恋について。』
『そうしてもらえると嬉しいわ。こうして出会った仲ですもの、良き友人になれたら素敵だわ。』
『でもそれは…真舌は怒らないか?男と友人なんて。』
菊は噴出すと真舌の顔を眺めた。