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5-2

『うん?』

『いえね…この人、雪久ゆきひさには良い人がいるはずなんじゃないか?なんて言ってたから。』

きく真舌ましたの髪を弄ぶとまた戻しそっと撫でた。

『で、いらっしゃるの?』

雪久は酒を飲み、手酌で酒を注いだ。

『そうだな…今はいないな。』

『もったいないわね。こんなに素敵な方なのにね。皆見る目がないのかしら。』

菊はフフと笑う。

『うーん、どうだろうなあ。今は仕事も忙しいってのもあるんだけどね。』

『そうなの?なら尚更ね。さっき話してらした縁談もお考えになっては?』

そう言われてふと月島花蓮つきしまかれんが頭に浮かんで即答する。

『いや…ないかなあ。』

『そう、でも今思った人ではなくても幾つかと先生は仰ってたんでしょ?なら見てみるのもありよ?』

雪久は後ろに手をつくと苦笑した。

『それは…えらくおせっかいではないのか?』

菊は微笑むと両手をぱちりと合わせた。

『フフ、おせっかいは女の特権ですわよ。』

そう言われて悪い気がしないのは菊だからだろうか。

『なるほど。』

『でも…聞いてもいいかしら?』

『うん?』

続木つづきさんはどのような方がお好きなの?色々お話を聞いていてなんだか少し…。』

言葉を濁して菊は苦笑した。

『…少し、女をある意味で選んでいない気がして。』

雪久は指で頭を掻くと俯いた。

『ううん…なんて答えたらいいんだろうな。確かにそのような節はあるかもな。以前、勧められた縁談を受け入れて結婚も考えていた。でもどこか他人事で、彼女が欲しいものすらみつけられずに破談になった。』

『まあ…。』

『どこか興味が持てなくて…ああ、女性としてではなくてね。人として。』

初対面に近い菊にする話じゃないと思いつつも、口が滑る。

『勿論、肉体関係を持つことだって可能だ、でもそこに感情が持てなくてね。』

『そう…そういうこと。続木さんはもしかしたら恋がしたいのではなくて?』

『恋…か?』

『そう、ありきたりなものではなく燃えるような恋。だから今は相手を選ばないのかも知れないわね。』

菊は破顔すると両手をぷるぷると振るわせた。

『そんな気がしただけよ?どうか気を悪くしないでね。』

『フフ、菊さんは優しい人だね。少し考えてみるよ。恋について。』

『そうしてもらえると嬉しいわ。こうして出会った仲ですもの、良き友人になれたら素敵だわ。』

『でもそれは…真舌は怒らないか?男と友人なんて。』

菊は噴出すと真舌の顔を眺めた。

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