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第六話

6-1

月の頭になり、朝からバタバタと忙しない使用人たちが家の中を歩き回っている。その中、小鹿こじかに渡されていた書類に目を通しているとたまが申し訳なさそうに顔を出した。

『すいません、雪久ゆきひささん、うるさくしてしまって。』

『いや、構わないけど…あったの?』

『それが…見つからなくて。』

雪久は書類を置くと珠と一緒に使用人たちの集まる部屋へ移動した。押入れの中を出して一つ一つ念入りに調べている男が顔を上げた。彼は番頭だ。

『あ、雪久さん。すいません、騒がしくしてしまい申し訳ありません。』

『それはいいけど…何を言われて探してるんです?』

番頭は続木つづきの家から祖母・美鈴みすずの言いつけで父・高良たからの着物を探しに来ていた。

高良の所有していたものは全て続木の家に持ち出されていたはずだが、あちらで見つからずこっちまで足を伸ばしたらしい。

『わかった、俺の部屋も見てくるよ。使わない箪笥があったから、そこにあるかもしれない。少し待ってて。』

雪久は恐縮する番頭たちを置いて、普段使っていない部屋の箪笥を開いた。少しだが着物が収められている。その一つ一つを確認すると、二枚ほど父が好んで着ていた着物が見つかった。雪久はそれを持ち番頭に手渡した。

『ああ、見つかりましたか…良かった。これで叱られずに済みます。』

『いや、多分母が忘れていったんだろう。気にしないで。』

頭を何度も下げて使用人たちが帰っていく。朝から怒鳴りつけられたのだろう彼らが少し気の毒になる。部屋に戻ると珠が後片付けをしていた。

『ああ、手伝うよ。』

雪久が手を出すと珠が両手で制止する。

『いいえ、雪久さんはお仕事をなさってください。これは私の仕事です。』

『わかった、でも一つ頼みたいことがあって。』

『なんですか?』

用事を頼むと珠は急ぎ出かけていった。

『間に合うといいけど。』

雪久は珠が片付けていたものに視線を落としてから手をつけず自室に戻った。

椅子に座り書類に目を通すと、傍に置いてあったまだ開けていない封筒を手に取った。紐をゆっくり解き開くと中から写真つきの書類を取り出す。

『また簡素な。』

書類は見合い相手の詳細と写真だ。計四枚あり、一番上に月島花蓮つきしまかれんがいた。華やかな写真に彼女の詳細が載っている。ぺらぺらと捲るとすぐ隣に置いた。

二枚目は豪華な美人だ。これほどの美人ならいくらでも相手がいるだろうにと詳細に目を通し月島の上に置く。三枚目も同じようにして重ねた。四枚目は書類だけだ。

『うん?』


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