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6-2

興味を引かれて詳細を見ると名前は柊嵩祢ひいらぎかさねとあった。両親は空白で保護者に煉医師ドクターレンとある。下のほうに小鹿こじかの手書きのメモが貼り付けられていた。

『近影はなし。ああ、それで。』

今までも見合い写真は渡されたことはあったがこうしたものは初めてだった。

雪久ゆきひさは苦笑するとそれを書類に重ねて封筒に入れた。

今日はこれから忙しい、パーティの準備をして小鹿を拾い会場へ行く必要がある。

部屋を出ると洗面所へ向かい顔を整える。長い前髪を後ろへと梳かし付けて上げると部屋に戻り今日着て行くスーツにブラシをかけて、靴を磨く。

大体の用意を終えると、玄関の方からたまの声がした。バタバタと走ってくると大きな花束を抱えていた。

『ありました!これでいかがでしょう?』

『うん、ありがとう。小鹿先生も喜ぶと思う。』

『フフフ、でももう少し早めにお願いしますね?』

『すまない。それとアレもあった?』

珠は頷くと紙袋に入ったものを手渡した。中には月餅げっぺいが入っている。

『これをどうするんです?』

『ああ、これは続木の家に。父の着物が必要ってことは父に関する何かだから、父の好きなお菓子を持っていってやって。』

『はい、そうですね。皆さん喜ぶといいのですが。』

『ああ、くれぐれも俺からというのは控えておいてね。』

『分かっています。ではちょっと行ってきますね。』

珠はまたバタバタ走り家を出て行った。今日は彼女たちにとっても忙しない一日らしい。

雪久は軽い食事を取ると自室でまた少し仕事をして、夕方前には出かける準備を始める。姿見の前で盛装した自分を見ると髪を整えた。

大きな花束を抱えて車に乗り込み小鹿の家へと向かう。小鹿と合流し会場へ向かう頃には日も暮れていた。

会場はホテルの広間で沢山の人が流れ込んでいる。その殆どが貴族のようで幾らか軍服も混じっている。小鹿が颯爽と入ると多くが振り返った。

軍服たちが小鹿を見つけて寄ってくる。それに合わせて雪久は少し距離を取った。

気を使ったというより以前軍に誘われたことがあり、それに気を悪くした小鹿が離れるように言っていたからだ。

ふと視線を感じてそちらを見るとドレス姿の月島花蓮つきしまかれんが嬉しそうに歩み寄った。

『続木先生、よかった、来てくださって。』

花蓮は学校とは違う雰囲気で微笑んでいる。華奢な肩から細い腕が伸びている。

『どうですか?』

雪久は素直に頷くと笑った。

『ああ、綺麗ですよ。とても似合っています。』

『よかった。嬉しい。ええと、今日はお見合いって聞いてますか?』

『ええ、聞いてます。それなんですが…。』

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