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6-5

藤田は顔を赤くすると顔を指で掻く。

『ええと…うちの会長から日奈木ひなきさんのお嬢さんはどうだって見合いで勧められてて…そんなのばっかりだったから僕は渋ってたんですが会食で会ってみたら、その、めちゃくちゃ好みだなって…思ったらつい、綺麗ですって言っちゃってて。』

雪久は噴出すと笑った。

『ああ、一目ぼれか。』

『ハハハ…女性には失礼ですよね。』

『まあ、女心は俺たちにはわからんもんだ。で、以前から日奈木木綿子ひなきゆうこの捜索を?』

『ええ、それは別件で。でも彼女に会ったらもっと本腰入れようって。』

『フフ、それはいい心構えだ。後で小鹿先生にも話を聞いておく。早く解決するといいがな。』

『ええ、そう思います。あ、続木さん、あの女性…見てますよ?』

藤田が視線の先に花蓮かれんがいた。

『じゃあ、僕はこれで。挨拶まわりがまだあって…。』

『ああ、また。藤田君。』

藤田はにこりと笑うと行ってしまった。

『続木先生…よろしいですか?あの方、行ってしまわれたので。』

『ああ、かまわない。』

花蓮はゆっくりと歩いてくると雪久の隣に立った。彼女は雪久を上から下まで見て微笑む。

『やっぱり似合いますね。そうした格好も…教壇に立たれている姿も素敵でしたが。』

『そうか…ありがとう。』

『今日は…嬉しかった。さっきの返事は断るつもりなんですよね?』

花蓮の顔は期待半分に見える。雪久は頭を下げると嘘をついた。

『申し訳ない、もう縁談は決まっているんだ。小鹿先生には言っていなかったから。』

『ああ…!そうだったんですか、すいません。気を煩わせてしまって。』

『いや、こちらこそ。』

花蓮は優しく笑うと頷いた。

『でもちゃんと来てくださってよかった。ありがとうございました。』

彼女はいつもの態度とは違い、本当に誠実に頭を下げて行ってしまった。

苦手ではあったが悪い人ではない。ああした顔を見てしまうと人となりを知りたくなるのは人間の本能だろうか。

雪久は傍のテーブルでグラスを取ると酒を飲む。甘い果実酒らしく今の雪久には優しく感じられた。

縁談はまだあと三件あるようだが、ふと周りを見回して一人の女性と目があった。


ダンスホール、中央では女性に囲まれた小鹿が幸せそうに話している。雪久はそれを見ながら先ほどまでいた女性たちの悲しそうな顔を思い出していた。

縁談相手には全て断ることが出来たが皆良家の令嬢らしく去り際も凛としていた。

あと一人探さないといけないが名前しかわからない。顔が分からないのでは対応のしようがないと壁にもたれた。

後味の悪い嘘を重ねてしまった。実際誰か選んでも良かったのに、全て断ったのはもしかしたら先日の菊の言葉のせいかも知れない。

『恋か…。』

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