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6-6

ふと呟いて腕を組むと、群衆の中から幸せそうな顔の小鹿がやって来た。

『やあ、雪久。』

『楽しんでますね。』

『フフ、しかし情報収集もしているよ?さっき藤田君と会っていたようだが?』

『ええ、瑪瑙めのうさんの件も聞きましたよ。』

『うん、そうか。で、雪久は柊嵩祢ひいらぎかさね嬢には会ったか?』

『いえ…顔もわかりませんし。何かあるんですか?』

小鹿は声を潜めると耳打ちした。

『どうやら日奈木木綿子ひなきゆうこを知るという人物が煉医師ドクターレンなんだよ。確定ではないが。』

『ああ、なるほど。その煉医師は顔は分かっているんですか?』

『背の高い若い医者だよ。相当切れ者と聞いているが顔までは。』

『探しようがないですね。先ほどから色んな人と話していたようですが、その辺はわからなかったんですか?』

『ああ…うん?』

小鹿が何かに気付くと雪久もそちらに視線を向けた。花蓮かれんだ。

『やあ月島花蓮君、今日は一段と美しいな。僕には眩しいほどだよ。』

花蓮の手を取り指先に口付けると小鹿は微笑む。

『フフ、お上手なこと。なかなか先生にもご挨拶できなかったから。』

『そうだったか。それは申し訳ない、こんな綺麗な君を待たせてしまうなんて。僕でよければ君を慰めることはできるからね?』

小鹿の言葉に花蓮は真っ赤になると視線を逸らした。

『…先生。』

まんざらでもない様子にとりあえず雪久は助け船を出した。

『先生…人前です。』

『ああ、そうだった。失礼したね、月島君。まだ用があるだろうに足を止めてしまって。』

花蓮は首を横に振ると微笑む。

『いいえ、ねえ、小鹿先生?あの方にご挨拶されました?すごく素敵な方なんですよ。』

『うん?』

花蓮は視線を誘導するとその先を見た。

『あの方、煉陽明れんようめい様というお医者様です。』

沢山の女性たちに囲まれ中央の椅子に座る男は白いスーツに丸い眼鏡をかけている。遠目に見ても美しくどこか異国情緒がある。すらりとした長い足を組み膝の上で両手の指を重ねている姿は絵画のようだった。


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