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第七話

7-1

『あら、花蓮かれnさん。さっきぶりですか。』

煌びやかな女性たちに囲まれた煉陽明れんようめいは花蓮の手を取り優しく微笑むと、花蓮の傍にいた小鹿こじか雪久ゆきひさに目を留めた。

『そちらの素敵な紳士たちはどなたです?紹介していただけますか?』

『ええ、そのつもりで。』

花蓮は煉陽明に二人を紹介すると彼は立ち上がり頭を下げた。その立ち振る舞いに女性たちは少し動揺していたがその美しさは雪久にもよくわかった。

『それで…小鹿雨月こじかうげつ殿は何かお聞きになりたいようですね?』

煉陽明の言葉に雪久は小鹿を見る。小鹿はにこりと笑うと聞きなれない言葉で彼に話した。それに続き煉陽明も答えると小鹿は頷く。

その場にいた者で彼らの話を聞き取れるものはいなかった。二人は会話をし終えると握手をする。小鹿は雪久の手に触れると顎をしゃくった。

花蓮をそのままにして壁のほうへと歩いていく。そして人気がなくなると小さな声で言った。

『後で少し時間をもらった。』

『ああ…先生、外国語が出来たんですね。知りませんでしたが…。』

『昔ちょっとね。』

『ふうん、便利そうですね。少し勉強します。』

『フフ、雪久のその勤勉さが僕の誇りだ。』

『で…調査対象である彼について分かっているんですか?』

小鹿はふうと溜息をつくと壁にもたれた。

『まだだ、謎が多くてね。異国人というのもあるが…煉陽明に日奈木木綿子ひなきゆうこがかかったことがあるとだけ情報があった。』

『なるほど。というか管轄外の調査になったから分からないということですか。』

『察しがいいな。日奈木木綿子は出国はしていないが、居場所が掴めないとなると匿われているか、それとも…。』

その後に続く言葉を想像して雪久は俯いた。可能性としてはありえる。

『でも考えても仕方ないので、時間まで僕は美女たちと戯れてくるよ。』

小鹿は雪久の肩をぽんと叩きパーティの群れの中へと入っていった。

雪久はそれを見送ってから会場の開け放たれたドアからテラスに出た。テラスにも少し人気があるが、それぞれが熱い情事を交わしている。

ポケットから煙草を取り出すと火をつけ煙を吐く。空は星が輝き月が煌々と照っている。テラスの壁にもたれて指で煙草を持つと、左の暗がりから男の悲鳴が聞こえた。カツカツとヒールが鳴り真っ赤なドレスの女が現れた。異国のドレスで膝元で切れ込み入り白い足がちらちらと見えている。腰まである長い髪を片手で流すと何かはき捨てるように言った。

雪久はそれを見つめながら煙草を銜える。

女は雪久を一瞥するとすぐに会場へと入っていった。暗がりでは男のうめき声が聞こえて心配になり顔を出した。

『大丈夫ですか?』

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