『ええ、この近辺に家を借りてそこで療養させていました。…何もかも間に合いませんでした。』
『そう。
『いいえ…彼女は覚えていませんから。それにあなたから話を聞いて私が驚いているくらいですよ。』
『それで…彼女は本当に死んでいるんですね?』
『…疑うのですか?』
『ええ、依頼主がいますので。真実であれば申し訳ないが。』
大きく溜息をつくと煉陽明は奥に向かって誰かを呼んだ。それに答えると赤いドレスの女がやって来た。テラスにいた女だ。
『シャオ、メイメイを呼んできておくれ。』
シャオと呼ばれた女は頷くとまた引っ込んで奥から小さな女の子を連れてきた。
まだ三歳ほどで指しゃぶりをしている。煉陽明は幼子を抱き上げると笑う。
『正直に申し上げますよ。これはメイメイ、私と木綿子の娘です。メイメイを産んで一年前に亡くなったんですよ。そこにいるシャオは木綿子の侍女でした。疑うのなら聞いてもらってかまいません。私は席を外します。』
そう言って彼は奥へと引っ込んだ。シャオは小鹿に微笑むと頷いた。
『ええと、シャオさん?』
『はい。』
『真実だけお話いただけるとありがたいが。』
小鹿の言葉に眉をぴくっと上げると頷く。
『なんなりと。』
シャオは小鹿の問いにすぐに答えた。けれど木綿子の話になると涙ぐみ言葉に詰まった。シャオは煉陽明の傍にずっといたわけではなく、木綿子が拾った娘だった。それに恩義を感じていると彼女は語った。
『なるほどねえ…君のことは身元を照会すればわかりそうだね。辛い話をさせてしまった、ありがとう。悪かったね。』
『いいえ、木綿子は私の母のような人でしたから。あの…。』
シャオは少し焦った様子で顔を上げた。
『木綿子の遺骨はご遺族に返されてしまうんでしょうか?』
小鹿は少し黙ると俯いた。
『うん、そうなるかも知れないね。』
『そう…。』
苦痛にゆがむ顔に嘘はないように思えた。
帰宅する車の中で助手席に座る小鹿は手の中で煉陽明から渡された時計を見つめていた。ハンドルを握り雪久は横目でそれを確認する。
『