『うん…とりあえずシャオの身元照会をして、
『そうですね、煉陽明はまだ日本には滞在すると言っていましたし。』
『うん、それはありがたいことだ。疑わしい部分はあるが煉陽明自身は悪い人間には見えなかった。』
『ええ…。』
煉陽明の話が真実だとすれば愛する妻を亡くした彼の心痛はいかほどだろうか。幼い娘と共に過ごす時間は愛しあった日々を思い出すには十分だろう。それに…
『先生…俺は
小鹿は首を横に振る。
『いいや…彼女が失踪したのは十年前、彼女はまだ若かったから…。もしかしたらそういった事情もあったのかも知れないね。』
『そう…ですか。
『彼女からはまだ小さい頃だったから生きているなら会いたい、探して欲しいと。』
『そう…。』
小鹿はポケットから煙草を取り出すと銜えて火をつけた。
『でも確認が先だ。感傷にふけるのはそれからでも遅くはないだろう?』
『そうですね。』
『確認は僕がしておく。ああ…それと今日はありがとう。家の近くに花屋がなくてね。』
小鹿は後部座席の大きな花束を見るとフフと笑う。
『いえ…今日くらいは役に立ちますよ。』
『ハハ、雪久はいつも役に立ってるよ。』
月明かりの中、小鹿邸に到着すると玄関ドアが開き
『おかえりなさい。』
小鹿は花束を持つと沙耶に差し出した。
『沙耶、お誕生日おめでとう、ごめんね遅くまで留守にしてしまって。』
その様子を車の運転席で見ていた雪久は嬉しそうな沙耶に微笑む。
『じゃあ、俺はこれで。』
二人に見送られて雪久は車を発進させた。
情報が上がるまでには少し時間がかかった。特に葬儀については日本の業者ではなかったらしく、全てがわかったのは数日前だ。
雪久はその間、小鹿からの仕事をこなし空いた時間に外国語の勉強をしていた。古書店で教科書やら探している時にシャオに出会い、彼女の厚意で日常会話を教わっていた。今日はシャオが来る日で家の中で珠がそわそわしていた。
今日はもういいよ、と言ってもシャオに会いたいらしく珠は掃除しながら玄関をちらちら見張っている。
シャオは時間通りに現れて玄関扉を開いた。
『こんにちは。』