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7-5

雪久ゆきひさが返事する前にたまが飛び出て赤い顔をして微笑む。

『いらっしゃいませ。』

シャオはおかしそうに噴出すと靴を脱ぐ。彼女が居間に入ると珠は急ぎお茶を入れに台所へ飛んでいった。

『悪いね、…君が好きみたいで。』

二人で席に着くとシャオは口元に手を当てて笑った。

『ううん、かまわない。妹みたいで可愛い。』

珠がお茶とお菓子をもって現れるとシャオは珠に微笑んだ。

『ありがとう、珠。』

珠はそれに胸に手を当てると嬉しそうに微笑み、部屋の端に座った。

数時間してシャオが時計を見上げて頷く。

『今日で終わりか…もう随分上達したんじゃないかな?』

『そうか…それならシャオのお陰だ。ありがとう。』

『いいや、雪久の勘がいいんだよ。発音もいいし、難しい言葉なしなら大丈夫そうだ。』

シャオは笑うと立ち上がった。ポケットを探り部屋の隅にいる珠の前に立つと手を差し出した。

『シャオさん?』

きょとんとした珠にシャオは手を開く。その手の中には小さな鈴があった。それを珠の手に握らせる。

『今日でここに来るのは最後だから。お守りにね。神社の前に出てた屋台で買ったんだ。珠にあげる。』

『いえ、そんな!』

『珠に似てたから買ったんだ。可愛らしい赤い鈴。』

困った顔の珠に雪久は頷く。

『貰っておきなさい。シャオがくれるというのなら。』

『よろしいんですか?』

珠の言葉にシャオは微笑み頷いた。

『もちろんだ、今日までお茶をありがとう。こんなに親切にしてもらったのは二度目だから。ありがとう。』

珠はくしゃくしゃに笑うと泣き出しそうに俯いた。

『ありがとうございます。シャオさん。』

シャオはハハっと笑うと珠を抱きしめた。

珠の涙と別れ、雪久はシャオを送って街中まで来ていた。

この辺りからシャオの住む家はもう少しあるが、ここでいいと彼女は笑う。

『今日までありがとう。シャオがいなかったらもっと大変だった。』

『いいよ、そんなこと。それより木綿子のことだけど…。』

シャオは少し伺うような顔をした。

『昨日、先生が木綿子ゆうこを帰しに行くって話してた。その辺のこと聞いてもいいかな?』

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