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第4話 幼稚園児の頃ってどれくらい覚えていますか?

 初めて幼稚園に行った時のことはよく覚えております。それはもう、鮮明に。


 幼稚園バスの窓から離れていく母上を大泣きしながら見ていました。よくある話です。入園シーズンの風物詩とも言えますね。


 当時の私にとっては、あんなに一緒だった母上と離れるなんて、この世の終わりだとも思っていたのでしょう。三つかそのくらいの子供ですから、そう思うのも不思議はないでしょう。


 幼稚園での思い出は……そうですねぇ……。給食が大層まずかったことと、粗相が多かったことしか覚えていませんねぇ……。友達の顔と名前なんてわかりませんでしたし、自分の名前も覚えていませんでしたから。


 ん?どうやって自分を呼ばれていると認識していたか、と?自分の他に誰も反応しなかったら、自分を呼ばれていると認識しておりました。そこはよく覚えております。


 当時の名前……さあ?当時の私が覚えていなかった事を、今の私が思い出せることがありますでしょうか?



 ああ、友達……同じアパートに住んでいた『そーちゃん』という男の子がいました。可愛らしい女の子と同い年の男の子です。周りの大人がくっつけたがるに決まっているじゃないですか。育児中の専業主婦なんてそれくらいしか娯楽が無かった時代ですから。


 その『そーちゃん』は好きでしたよ。顔も名前もわかりませんが。



 あとは……『まーくん』という子も覚えていまして。両親が医師という裕福なご家庭の……。よく覚えているね。と?そうかもしれませんね。幼稚園の友達の親の職業なんて、あまり覚えていないのが一般的かもしれませんね。


 でも、まだ七つにも満たない頃から、お母様には社会的地位の高い仕事、公務員や医師になるように言われていたものですから。『まーくん』のご両親や経済状況をよく引き合いに出されていたので、よく覚えておりますよ。


 普通の親御さんは、仕事と経済状況をあんなにしつこく念押すことなどしない。そう知ったのは……成人してからでしたね。

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