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第5話 小学校の入学式の日のことでしたか……。

 ええ、小学校の入学式の日のことは……よく覚えています。ええ……はい、しっかりと……。いつか、忘れることはできるのでしょうか。


 別に何かニュースになるような事件や事故があった訳ではないのです。私的で個人的な事件ですよ。


 子供の頃なんてそんなもの?……そうですよね。子供の頃は自分の身の回りが世界の全てですから。



 入学式が終わった後の話です。学校から学用品が配られて、それを親と協力して家に持ち帰るでしょう?お父様は入学式にはこられなかったので、お母様と私で学用品を持って帰ったのです。


 それ自体は事件でもなんでも無いですよ。小学校から家までのおよそ三十分の道のりに事件が起きたのですよ。ふふっ、笑っても構いませんよ?あら、面白くはないですか……そうですか。


 私の同級生のお母様……いわゆるママ友ってやつですかね。お母様はママ友コミュニティに入ろうとしたのでしょう。入学式後の校門付近で、お母様は他のお母様とお喋りをされていました。早く帰りたかった私は、お母様を急かしますが「ちょっと待って」「大事な話をしてるから」と言うだけで何も動いてはくれませんでした。


 やっと『井戸端会議』が終わり、家に帰ることになりました。けれども、ここでも、同じ方向に住んでいるママ友と喋りながら、ゆっくり……小学校一年生でも遅く感じるような速さで歩いていました。疲れや待たされた苛立ちから、お母様に「もう少し速く歩こう」と催促しましたが、聞き入って貰えませんでした。しびれを切らした私は、お母様を無視して先に家に帰ったのですよ。



 よくある話?そうですね。この後、家で少し叱られるくらいなら、よくある話でしょうね。


 お母様が家に着いた途端、まず、頬を叩かれましたね。「勝手に先に帰るな」「危ないでしょう」と。よくよく考えたら、小学生は一人で登下校するのが当たり前でしょう?


 けれども、お母様は私がお母様を置いて帰ったのがお気に召さなかったのでしょう。「アンタのために他のお母さんと話してたのに」「アンタの友達一人減った」「一人で先に帰るなんてあり得ない」とか……ね?色々言われましたよ。


 今は、お母様のママ友コミュニティに入らねばという焦燥感や、娘が勝手にどこかに行ってしまったことへの不安は、少しだけは理解出来ます。それに加えて、お母様と私は何も分かり合えない事も理解してしまいましたけどね。

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