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第3話 途中入学

 物音に反応し、金髪ツインテールがレリアの方を向く。


「! 誰?」

「私です」

「いや、本当に誰よ」

「そんなことはどうでもいいのさ。それよりも、大勢で一人に対して、何してんの?」

「見て分からないの?」

「見て分かるから聞いてんの。どうやらあんた達の方が力は上のようなのに、あえて大勢の力を振るう必要があるの?」


 この件とレリアが感じている苛立ちの原因は全く別だ。

 しかし、大きな力が力無き者を飲み込もうとしている構図は、全く同じだったのだ。

 両親、そして姉がいなくなった原因である存在。今、目の前にいる金髪ツインテールの集団。

 数も力の質も違うが、レリアには全く同じに見えていた。


「あるわよ。この平民はわたくしをイライラさせるの。それだけで罰を受けるに値するわよ」

「なるほどね。特に何もしていないのに、イライラさせるわけだ」


 適当に相づちを打ちながら、レリアは歩みを進める。

 やけに自信満々に歩くので、取り巻きはおろか、金髪ツインテールすら制止することはできなかった。


「あんたにはあんたの基準で、あの子をやっつけてるわけだ。じゃあ、私も私の基準でやってもいいよね」


 レリアと金髪ツインテールの距離がゼロになった。


「は? それはどういう――」



 そしてレリアが金髪ツインテールことネイティスを殴ったのだ。



 時間は、ネイティスがレリアへ攻撃を仕掛けようとする瞬間にまで戻る。


(本当に仕掛けてくるのか。全く……)


 ネイティスの攻撃宣言に対し、レリアが対応しようとしたその時――!


「レリア・ティームスさん! レリア・ティームスさんはどこですか!?」

「ここです! レリア・ティームスはここにいます!」


 教師らしき女性の声。すかさずレリアは大声で叫んだ。ネイティスの方を見て、ニヤリと笑いながら。

 状況をひっくり返されたことを悟ったネイティスはそそくさと取り巻きを解散させ、自分自身も足早に去っていった。


「レリア・ティームス。貴方の名前、覚えたわよ」

「私も覚えたよ。先生が来たらそそくさと逃げる腰抜けだって」

「! わたくしに楯突いたことを後悔させてやる……!」


 レリアと赤髪おさげの少女のことアルタナの二人が残った。


「あ、あの……その」

「アルタナ、だよね? さっきネイティスがそう呼んでた気がするんだけど」

「そ、そうです。うちはアルタナ・ウィアップって言います」

「朝はありがとうね。おかげで学校に来ることが出来たよ」

「い、いやそんな……うちはそんなお礼を言われるようなことなんてしてないよ」

「それでも。人に良くしてもらったら、お礼を言いたいだけだから。じゃあねー」

「ちょ、ちょっと待って!」


 アルタナはつい、教師の所へ行こうとするレリアを呼び止めてしまった。


「わ、分かってるの? 大変なことをしたんだけど……」

「大変? あぁ、殴ったことか」

「『あぁ、殴ったことか』じゃないよ……! 本当に大変なんだよ! 今から謝っても許してくれるかどうか……!」

「あはは。謝る気なんてさらさらないから大丈夫。ありがとうね、心配してくれて」

「この学校にいられなくなるかもしれないんだよ……!?」

「それも大丈夫。目的を果たすまで、私はこの学校を出る気は全くないから」


 レリアはアルタナへひらひらと手を振り、教師と合流した。

 多少のトラブルはあったが、無事に教員棟へ行ける。レリアはようやく一息つくことが出来た。


(アルタナ、随分とまぁ心配してくれる子だったな)


 赤髪おさげの少女アルタナ。自分がいじめられていることよりも、レリアのことを気にしてくれた心優しき少女。


「あの、質問良いですか?」

「何でしょうか?」


 道中の暇つぶしに、レリアはネイティスのことを聞いてみた。

 別にチクろうという訳ではない。単に、興味が湧いたからである。


「そうですねぇ……品行方正な淑女ですよ」


 レリアは吹き出しそうになるのを懸命にこらえた。本性を知った後に聞く話ではなかった。

 相手が教師でなければ、腹を抱えて笑っていただろう。

 これ以上聞いたらいよいよ爆笑しそうだったので、レリアは口を閉ざした。


「――じゃあ次の確認です。貴方は途中入学ですよね? 入学案内に同封されていたパンフレットには目を通しましたか?」


 案内をしてくれた教師は生徒の管理を仕事としているようで、色々と確認をされるレリアであった。


「あぁ、あの少し厚いやつですか。もちろんです」

「よろしい。では次の確認ですが、クラスは『魔術士科』で間違いないですか?」

「魔物を倒す力を得られる所ならば、どこでもいいです」

「それなら魔術士科しかありませんね。攻撃的な魔術を使うことを許されるのは、あそこしかないですからね」

「確か『魔具士科』もありますよね。あそこはどうなんですか?」


 魔具科のことを知っていながらも、レリアはあえて質問した。もしかしたら自分の知識が間違っている可能性を考慮してのことだ。


「魔具科ももちろん攻撃的な魔術を教わる時間はあります。ですが、それは戦闘的なことではなく、あくまで知識としてです」

「よりよい魔具を作るためには避けて通れない知識、というやつですね」

「その通り。魔具士科の授業目的は誰もが簡単に、そして便利に使える魔具制作に関われる人間を育成することにあるわ」


 魔具とは人間が作り出した簡易的な魔術行使を可能とする道具である。

 製造方法をレリアは知らない。あれは、専門的な知識を持った人間だからこそ理解出来る内容だ。

 魔具士科にとっての魔術とは、戦う手段ではなく、知識の一つ。より深く理解した者が、より簡便な魔具を作り出せる。これは鉄則である。


「それなら、私はやはり魔術士科で良いです。私は魔物を倒すための力が欲しいので」

「分かったわ。この後、魔術士科の先生が貴方を連れて行ってくれるから指示に従ってね」


 待っていること数分。

 レリアの前に男性の先生が現れた。


「どうも初めまして。僕はエグゼリオと言います。これから魔術士科で学びを深めていきましょう」


 長身の男性だった。黒髪、そして黒い瞳。縁なしの眼鏡もかけていた。

 レリアはエグゼリオから感じる魔力量に驚いていた。

 魔力を持つ者は別の人間の魔力が見える。その上で、レリアはこう感じた。


(魔力を……感じない?)


 感じない、と言ったら語弊がある。

 微弱な魔力。攻撃的な魔術を使ったら、すぐにでも魔力切れで気絶しそうな人間。

 吹けば消し飛ぶ、ロウソクの火のような男性だった。

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