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第4話 自己紹介

 エグゼリオに連れられ、レリアは教室へ向かっていた。

 その間に、エグゼリオからこのアスガスタ王立魔術学校の説明を受けていた。


「魔術士科と魔具士科の授業棟はそもそも分かれています。ここは魔術士科の授業棟。魔具士科の授業棟はここを出て隣の建物になるので、間違えないようにしてくださいね」

「大丈夫です。そんなポカはしませんよ」

「心強いですね。さぁ、ここですよ。僕が呼んだら入ってきてください」


 そう言って、エグゼリオが教室へ入っていった。

 少し話をした後、エグゼリオが扉から顔を出した。


「さ、レリアさん。入ってきてください」


 促されるまま、レリアは教室へと入った。その瞬間、一部がざわりとする。

 レリアがその方向へ視線を向けると、その理由が分かった。


「貴方……! さっきの……!」

「あぁ、いたんだね」


 金髪ツインテールこと、ネイティス・スプレワールが怒りをにじませていた。

 ネイティスとレリアが見つめあっているのに気付いたエグゼリオが声をかける。


「スプレワールさんとお知り合いですか?」

「いえ、初対面です」

「! 貴方、よくもそんな抜け抜けと!」


 よく見ると、あの取り巻き達がいない。別クラスなのだろうか。金髪ツインテール一人だった。

 そして目についたのはもう一人いる。


「アルタナもいるんだね」


 あの赤髪おさげの少女アルタナ・ウィアップがいた。知っている人がいて少し安心したレリアは、軽く手を振った。

 アルタナは一瞬ネイティスの顔を伺ってから、控えめに手を振り返してくれた。ネイティスがいるのだから、無理に振り返さなくても良いのに。


(なんて律儀な子なのだろう)


 状況が全く読めていないエグゼリオは進行を続けた。


「とりあえず自己紹介をお願いします」


 チョークを持ち、自分の名前を書こうとしたレリア。

 エグゼリオが更に付け足した。


「言い忘れてました。物体操作の魔術でね」

「物体操作――分かりました」


 物体操作は基本的な魔術の一つ。少し魔術を齧ったことがある人なら、誰でも使える魔術となっている。

 あえて物体操作の魔術を使え、という指示。その意味にレリアはすぐに気づいた。


(試されているってことね。了解了解。そういうのは、嫌いじゃない)


 レリアの右人差し指が光る。魔術を行使するための道具、魔術手形が小さく光る。

 青白い光に包まれ、チョークが宙に浮く。これは物体操作の魔術が引き起こしている現象だ。

 レリアの意のままにチョークが動く。今のチョークはレリアにとっての手足と同義。

 あっという間に名前を書きあげ、おまけにかわいい猫のイラストまでオマケして描いてみせた。


「レリア・ティームスです。これからよろしく」


 生徒たちが驚く。

 物体操作の魔術は基本中の基本である。それだけに、ここまで素早く、そしてイラストまで描いてしまえる精密な動作。

 間違いなく出来る・・・人間だと、レリアは他の生徒に対し、雄弁に語ってみせた。


「うん、操作速度も精密性も凄まじいですね。皆さん、ここまでの使い手はそういません。レリアさんの真似を出来るところは真似するように」


 レリアはネイティスの視線に気づいていた。


(『調子に乗るなよ』って言葉が聞こえてくるようだ)


 明らかな敵対心。しかし、レリアとしては大した感情はない。

 無感情に見つめ、やがて飽きて、ネイティスから目をそらした。


「席なのですが、ウィアップさんの隣が空いているので、そこに座ってください」

「ありがたき幸せです」


 エグゼリオがアルタナの隣を指さした。レリアは喜びの言葉を口にし、アルタナの隣まで歩いていく。

 ネイティスを横切れば、アルタナの席だ。レリアは真っすぐ前を向いたまま。



 次の瞬間、ネイティスの右人差し指から一筋の光線が撃ち出された。

 対するレリアも光線を撃ち出す。



 光線同士がぶつかり、相殺される。


「ありがとうネイティス……えーと家名忘れたから名前だけでいいか。羽虫を落とそうとしてくれたのかな? 麻痺矢の魔術を使ってくれるなんてさ」

「さぁ、何のことかしらね?」


 クールに返す反面、ネイティスの内側は酷く煮えたぎっていた。

 完璧なタイミングでの麻痺矢の魔術。別に殺そうという訳ではない。片足を一瞬麻痺させ、転ばせてやろうとしたのだ。教師にバレたとしても、この程度なら注意で済む。


 だというのに。


(なんて速い対抗の魔術なの……! わたくしの魔術がこんなにあっさり打ち消されるなんて……!)


 レリア・ティームス。

 転ばせるくらいで許してやろうと思っていた。

 だが、それは少し優しすぎたのかもしれない。


(やはり貴方はタダじゃおかない)


 改めて怒りを燃やすネイティスとは正反対に、レリアは冷静だった。


(流石お貴族サマ。それなりにマシな麻痺矢の魔術を使えるんだね)


 あえて撃ち落としたが、レリアは本来、もっと早く対処することが出来た。

 具体的には――光線が放たれる寸前で、だ。

 レリアはこの学校のレベルを確かめるために、少しだけ対応を遅らせたのだ。


 結果は合格も合格。

 ここで通えば、間違いなく自分のレベルが上がる。

 そうすれば、家族が消えた原因であるヤツを倒せるようになる。


「学びの楽しさとやらを解き明かしてみるとしようか」


 レリアのひとり言は誰にも聞こえない。

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