近年の市町村合併によって、20万人の市となった地方のある都市。
その駅は最寄りに5つの高校が有る為、朝のラッシュ時の駅前は高校生だらけとなる。
青春の真っ直中、色気づいた女子高生達のスカートの裾は短い。今日は夏の終わりを告げる風が吹き、短い悲鳴を沸かせると共にスカートの奥に咲く色とりどりの花を見せて、男子高生達の目を楽しませていた。
そんな中、スカートの裾はちょっとの風如きには翻らない標準のまま。ブラ線と生足を見せるのを嫌ってか、まだ残暑が残っているにも関わらず、サマーセーターを着込み、黒いストッキングも履いて、完全防御を誇る女子高生が居た。
野暮ったい黒縁の眼鏡をかけて、前髪を真っ直ぐに切りそろえた髪型にしゃれっ気はゼロ。後ろ髪が腰まで伸びている以外、特徴が無い彼女。その姿は今時の女子高生とはかけ離れており、ある意味で目立つ存在ながらも、彼女が纏う暗いオーラが彼女を景色の中に埋没させていた。
やがて、各高校の制服毎に道分かれてゆき、顔見知りや友人を見つけて、彼方此方で挨拶の声が聞こえてくる。
今日は月曜日、誰もの心にあるのはまた一週間が始まる憂鬱さだが、休日を経て、久々に見る友人の顔に声が自然と出るのは当然である。
しかし、先ほどの彼女へ話しかける者は誰も居ない。それどころか、彼女は周囲との接触を拒絶するかの様に鞄の中から書店購入時に貰えるブックカバーをかけた文庫本を取り出すと、それを読みながら歩き出した。
校門を通り、下駄箱で上履きに履き替え、廊下を進み、階段を上る。やはり、彼女へ話しかける者は誰も居ない。
彼女の名前は『植木葵』、俗に言う『ぼっち』である。
だが、そんな葵にも小学校の頃は少ないながらも友人が居た。ぼっちとなったきっかけは中学二年の春にあった父親の仕事の都合による転校。
葵は転校後の最も大事な最初の一週間で失敗した。と言っても、葵が何かをしでかした訳では無い。葵の失敗は逆に何もしなかった事だった。
転校前の友人達を例に考えると、葵は気を許し合った相手とは仲が良くなるのは早いが、性格が大人しく、引っ込み思案のところがある為、友人を作るにはサポートをしてくれる積極的な者を必要とした。
教室の扉を開き、自分の席へ座るが、やっぱり誰も葵へ挨拶はしない。
席は窓側の最前列。席替えの時、望んでもいないのに『植木さん、目が悪いよね? 良かったら、席を替わらない?』と言われて断り切れなかった。
すぐに葵は校門の前で読み止めた文庫本を再び鞄の中から取り出して読み始める。周囲では昨夜見たテレビの話題で盛り上がっているが気にしない。
しかし、朝のショートホームルームが始まる間際、腕時計を何度もチラリ、チラリと見て、葵は少しだけ緊張を始める。
「おっす! みんな、おはよー!」
そして、右から聞こえてきた男子生徒の声に胸を痛いほどにドキリと高鳴らせる。
彼の名前は『上野渉』、二枚目の上に成績優秀と運動神経抜群を兼ね備えて、更に性格も良し。おまけにサッカー部のエースとキャプテンを務め、天が二物も、三物を与えた学校の一番人気を誇る王子様。
葵は平静を装いながら文庫本を読んでいるフリ。渉が近づいてくる気配を感じ、胸はドキドキと高鳴りっ放し。
「植木さん、おはよう!」
「……お、おはようございます」
今朝、家を出て以来、初めてかけられる挨拶。葵は声を上擦らせながらも、挨拶をちゃんと返せたと胸をホッと撫で下ろす。
だが、人気者の渉である。好意を寄せている女子生徒は多い。数名の女子生徒から突き刺さる様な睨みを向けられて、葵の高揚していた心は怯えと共に一気に冷えてゆく。
なにしろ、渉の席は廊下側の最後尾から一つ前。葵の席とは対角上にあり、この教室近くの階段が教室後方の先にある以上、渉は教室後方の扉から入る方が断然に自然であり、最短路であるはずが、わざわざ渉は教室前方の扉から入り、葵の隣を通ってから自分の席を向かうという遠回りをしていた。
もっとも、遠回りと言っても大した距離の違いは無いのだが、それが毎朝欠かさないものとなったら、その行動を誰もが不思議に思うのは当然の事だった。
しかも、渉が自分から挨拶する女子生徒は葵1人だけ。たかが挨拶、されど挨拶、渉へ好意を持つ女生徒にとって、やっかみを持つのに足りる十分な理由であった。
もしかしたら、私を好きなのかも知れない。そんな夢や自惚れは持たない。葵は自分の平凡な容姿も、貧しいスタイルも、好かれる様な性格でもない事も自覚していた。
渉とは名字の頭が『う』同士。高校入学直後の席順にて、出席番号がお互いに男子と女子の3番目だった為にたった2週間ほど隣り合っただけの縁。
初対面の時、『これから3年間、よろしくね』とかけてくれた言葉を忠実に守り、友達の居ない自分を気にかけてくれているのだろうと葵は考えていた。
******
その後は担任が現れて、朝のショートホームルーム。授業が始まるが、特筆する出来事は何もない。
席が最前列の為、内職が出来る筈もなく、授業は必然的に集中。授業間の小休止は机から離れずに文庫本を読み、もよおしているなら、誰かに声をかける事もなく、トイレへ1人で向かう。
昼休みは特別教室が列んでいる棟の非常階段の3階。その誰も来ない場所が葵のランチタイムの場所であり、昼休みが終わるギリギリまで過ごす。
「さて、全員に行き渡ったかぁ~~?
何度も言っているが、高校生活も半分が過ぎて、もうすぐ2年の秋だ。
そろそろ進路を本格的に決めなきゃいかん。
……と言う事でだ。今週、親御さんと良く話し合って、その用紙を週末までに提出しろ」
気付いてみれば、もう終業のショートホームルーム。担任から配られた進路調査の用紙を眺めながら、葵は思わず溜息を小さく漏らす。
塾へ通ってはいないが、成績は良好。所謂、有名校は無理でも国立へ行けるだけの学力は持っていた。
それ故、親に金銭的な心配をかける可能性は低い為、その点は悩んでいなかったが、大学へ行ったところでどうなるという悩みを葵は抱えていた。
葵が大学進学を決めている理由は『みんなが行くから、自分も行く』という理由にならないもの。将来、何々になる為、必要な何々を学びたいというビジョンは全く持てなかった。
ただ、一つだけ明確に解るのは、大学へ進学したところで今と何も変わらず、友人の居ない4年間を過ごして、味気の無い大学生活を送るのだろうと言う事。
『大望を抱いて、それを実らせて欲しい』
小学校の頃、父親から聞いた自分の名前の意味。『葵』の花言葉に因んだものらしい。
それを知るからこそ、葵は進路の話が出る度、父親に申し訳なくて、どうしても溜息が出てしまう。とても、そんな人間になれないと自覚しているだけに。
そもそも、女性の最終進路と言える結婚すら無理に違いない。葵は自分の性格から、そう考えていた。
例え、幸運が幾つも重なり、結婚する事が出来ても、それは確実に周囲から勧められたお見合い結婚であり、恋愛結婚は絶対に無理だろうと諦めていた。
中学校の頃、恋愛小説を読む度に心をときめかせて、高校生になるか、大学生になれば、自分にも素敵な恋人が自然と出来るだろうと夢見ていたが、今は現実を知ってしまっている。
「植木さん、また明日ね!」
「は、はい! ま、また明日!」
なにせ、唯一の知り合いである異性ですら、この様である。
終業のショートホームルームが終われば、葵は帰宅部。放課後、何処かへ寄る用事も無ければ、それを誘ってくれる友人も居らず、あとは家へ帰るのみ。
そんな葵の姿を見つけて、渉は友人達との談笑を中断させると、教室後方扉前の廊下を葵が通りがかるのを待ち、笑顔で手を振る。これも渉が毎日欠かさない日課。
しかし、葵は紅く染まった顔を恥ずかしさに伏せて、挨拶を小声で帰すのが精一杯。渉の前から足早に立ち去る。
******
普段なら、廊下の曲がり角を曲がったところで歩調を戻すのだが、今日の葵は違った。
階段を足早のまま下り、靴を下駄箱で履き替え、校門を通りすぎると、足早から小走りへと変えて、その速度を上げた。
葵が住んでいる市は20万人が暮らす都市ではあるが、商業が栄えて、人口が密集している地域は一部しかなく、その土地の殆どは田畑であり、市の面積は県全体の10%となる。
その為、移動手段の主流は圧倒的に車である。成人で運転免許書を持っていない方が珍しく、実際に葵の両親も父親と母親で車を1台づつ持っており、電車に乗るのは老人と運転免許書をまだ取れない高校生のみ。
当然、そう言った事情から、電車の路線は赤字経営。運行ダイヤは東京の様な分刻みとはいかず、朝のラッシュ時ですら、20分間隔、30分間隔が当たり前。
それを過ぎたら、東京の様な大都市では考えられない1時間間隔の運行となり、乗り遅れたら最後、次の電車まで1時間も待たされる羽目となる。
そう、今日の葵には急ぐ理由があった。いつもは悠々と歩いて帰り、途中の本屋へ暇潰しに立ち寄るのを日課としているが、今日は息を苦しそうに切らして、汗を滴らせてまでも走り、一本早い電車に乗る理由があった。
その甲斐あって、葵が駅へ駆け込むと、目的の電車はホームに居り、間もなく発車する合図のベルを鳴らしている真っ最中。
葵は既に限界ながらも走る速度を速める。実を言うと、田舎の駅故に改札を通った時点で電車は葵の乗車を待ってくれているのだが、駅に鳴り響くベルが葵を焦らせる。
駅のホームを駆けて、電車が停まっている向こう側のホームへ渡る為に横断橋の階段を一段飛ばしで駈け上がり、下りる時も一段飛ばし。普段の葵を知る者なら、そのスカートの裾を翻している姿にさぞや驚いた事だろう。
何が葵をそこまで駆り立てているのか、それは一昨日の土曜日の事。市の図書館から借りてきた本に理由があった。
この市へ引っ越してきた葵にとって、唯一の幸運は市営図書館が葵の知るどの図書館よりも比較にならないほど大きく、蔵書が充実していた事に尽きる。
もし、蔵書に希望の品が無くても、リクエスト投票を投じておけば、ほぼ確実に新書リストへ加えられ、どんなに長い連載作でも新刊が必ず入る。
その充実ぶりの一例を挙げるとするなら、あの豹頭の戦士が活躍する戦記の正伝と外伝の全巻が3セットづつ揃っているくらい。
とにかく、圧倒的な蔵書。元々、少女向けの恋愛小説しか読まなかった葵がジャンルを選ばずに本を読む様になったのは、この市営図書館の存在が大きかった。
今現在、葵の中でのブームはファンタジーのジャンル。それこそ、今年の夏休みは膨大な暇を利用して、今流行りのライトノベルから古典の和訳本まで片っ端から読んでいた。
そんな中、一昨日の土曜日。古典の和訳本が列ぶ本棚の上に横積みされている続き物の7冊を見つけて、その1冊目を試しに読み、葵は虜となった。
かなり古い本らしく、訳されている日本語はやや読み辛かったが、それを補って余るだけの面白さがあり、葵は1冊目の途中で本を閉じると、そのシリーズの7冊をじっくりと、ゆっくりと読む為に図書館から借り受けた。
その7冊の本のシリーズ名は臆病な勇者。と言っても、その臆病な勇者は1冊目に登場しない。
1冊目の主人公は副題となっている非力な戦士。次の二冊目でも登場せず、やはり主人公は副題となっている愚かな賢者。
つまり、この7冊のシリーズは1冊毎に主人公が変わる本であり、シリーズである理由はとある異世界の同じ大陸を舞台としており、それぞれの主人公が冒険の果て、魔王と呼ばれる絶対悪の存在を倒すという点。
ちなみに、3冊目は笑えない道化師、4冊目は忠誠無き騎士、5冊目はのろまな武道家、6冊目は乞食の王様。
この様に副題となっている各主人公達は全員がその職業と相反するイメージの前置詞が付いたキャラクター性を持っており、そのちぐはぐさが物語を愉快にしていた。
土日を通して、葵は夢中になって読み耽った。
それこそ、昨夜は夢中になり過ぎて、いつまで経っても風呂へ入ろうとしない葵へ母親が怒鳴ったくらい。
だが、残念ながら、7冊全てを土日で読み終わるまでは至らなかった。6冊目を読み終えると、日曜日はとっくに終わっており、7冊目へ手が伸びたが、誘われる睡魔に負けて眠り、気付いたら朝になっていた。
本音を言ったら、今日は学校を休みたかったが、そうもいかない。7冊目を学校へ持ってゆく事も考えたが、教科書の数倍は分厚いハードカバー本である。すぐに諦めた。
******
「ただいまー……。」
玄関のドアを鍵で開けて、帰宅の挨拶。
返事は返ってこない。両親は共働きであり、別の高校へ通う弟は野球部に入っており、この家で一番早く帰宅するのは常に葵だった。
玄関の下駄箱上にある置き時計を見ると、時刻は4時半。母親が帰ってきて、夕飯の手伝いをするまでの猶予はあと2時間。葵は急いで帰ってきた甲斐があったと思わず笑みを零す。
駅から5分弱、自宅まで駆けてきた喉の渇きを癒す為、キッチンへ直行。作り置きしてある冷蔵庫の麦茶をコップに移して、喉をゴクゴクと鳴らしながら飲み干す。
人心地を付いた途端、気になってくるのが、汗でべと付いたブラウスと蒸れまくっているストッキング。葵はシャワーを浴びたい気分だったが、それを行っては急いで帰ってきたのが無駄になると我慢。もう一杯、麦茶を注いだコップを持って自室へ向かう。
「はぁーー……。涼しいぃーー……。」
自室へ入ると、まずはエアコンのスイッチをオン。室内の設定温度を最低の16度まで下げる。
もちろん、風力は最大。冷風が当たる位置に立ち、サマーセーターとストッキングを乱暴に脱ぎ捨てて、胸元のリボンも解き捨てる。
その上、第一ボタンと第二ボタンを外したブラウスを前に引っ張り、冷風を胸元へ送り込んで至福の表情。続いて、数歩下がり、スカートをたくし上げて、火照り疲れた脚にも冷風を当てて、これまた極楽気分。
やがて、汗が身体から引いてゆき、葵は着替える手間を惜しみ、半ば制服のまま勉強机に座ると、麦茶を一口飲んでから、7冊目となる本を手に取った。
「おおっ……。遂にっ!?」
古びたハードカバーを捲ると、書かれていた副題は臆病な勇者。
7冊を通したシリーズ名が最終巻の副題となっている粋な計らいに葵の期待は自然と高まる。
だが、その期待はすぐに裏切られる。数ページを読み進めて、ページを捲れば捲るほど、葵のテンションはどんどんと下がり始めてゆく。
何故ならば、主人公の名前はまだ明かされていないが、女子高生。それも友達が1人も居ない『ぼっち』であり、その境遇と言い、学校での過ごし方と言い、葵の日常と酷似していた。
まるで自分の寂しい青春日記を読んでいるかの様な錯覚を覚えて、葵は知らず知らずの内に涙を目に溜める。
しかし、ここまで読み重ねてきた6冊が葵を勇気づけた。そう、どの主人公も最後は英雄となるハッピーエンド。この物語も最後はハッピーエンドで終わるに違いないと、作中の女子高生に感情移入して応援を始めた。
「この世に在る森羅万象よ。我、ここに命を賭して、鍵を届ける。
世界の扉を開く者よ。その鍵を手に取り、時空の回廊を歩け。因果を司る神の心のままに……。」
今まで読んだ7冊全てを通してのお約束シーン。現実世界の主人公が異世界へと召喚される際の呪文。
長々と3ページにも渡る厨二病を擽るソレを思わず最後まで口ずさみ、葵は次のページを捲って、驚愕に目を見開いた。
「ええっ!? ……えっ!? えっ!? えっ!? えぇぇ~~~っ!?」
ソレもその筈。左右のどちらのページも真っ白。欄外のページ表記ですら、活字は1文字たりとも印刷されていない。
次のページを捲っても、その次のページを捲っても、そのまた次のページを捲っても、真っ白なページが続き、紙の端を弾いて連続的に捲ると、それは最終ページまで続いていた。
葵は口をポカーンと開け放って、茫然自失。数拍の間を空けて、活字が印刷されている最後の27ページと真っ白な28ページを何度も往復させて捲った後、脱力して項垂れながら溜息を深々と漏らした。
「それは無いよ。ここまで期待させておいてさ~~……。」
たっぷりと5分は何も考えられずにそうしていたが、幾ら嘆いたところで現実は変わらず、納得は出来ないが、納得するしかないと諦める。
大量の汗まで掻いて、何の為に走って帰ってきたのか、努力が完全な無駄となり、葵が明日は確実に筋肉痛だろうなと顔を上げたその時だった。
「え゛っ!? ……キャァァ~~~っ!?」
机の上に閉じて置いてあった7冊目が勝手にフワリと浮き、葵の目線の位置でフワフワと滞空。
その信じ難い光景に息を飲み、葵は身体をビクッと震わせて仰け反り、その勢いを余らせて、座っている椅子ごと背後へ倒れる。
「痛たたた……。」
後頭部と背中を強打して、その痛みに呻くが、今はそれどころでは無かった。
慌てて視線を机へ戻すと、事態は更に深刻化。7冊目の本だけではなく、7冊全ての本が浮かび上がり、葵の周囲を取り囲んだ。
「な、何なの。こ、これ……。」
明らかに異常な光景。葵が怯えに一歩後退するが、浮遊する7冊の本も移動して、その中心に葵を捉えて離さない。
とうとう葵が恐怖心に負け、部屋から逃げ出そうとした瞬間、7冊の本が同時に開き、何千枚という紙を吐き出して、葵へ向かって飛ぶ。
「イ、イヤァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~っ!?」
その直後、葵の悲鳴と共に眩いばかりの閃光が葵を中心に生まれ、それが暫くして止んだ時、葵の姿は部屋から消えていた。
残ったのは部屋中に散らばる何千枚もの紙と7冊の本だけ。
******
夕陽が沈み、薄暗くなってきた葵の部屋。その変化は不意にやってきた。
床に落ちていた7冊の本が開いたかと思ったら、床に散らばっている何千枚もの紙がフワリと浮き上がり、ある紙は時計回りに、ある紙は逆時計回りにそれぞれが宙を回転し始める。
その様を強いて例えるなら、銀河。やや間を空けて、7冊の本がブラックホールとなって、何千枚という紙を次々と吸い込み、部屋を舞っていた紙が1枚も無くなる。
7冊の内、6冊は役目を終えたかの様に本を閉じ、本を開いたままなのは7冊目のみ。
「ただいまー……。」
部屋の扉の向こう側、階下で聞こえる女性の声。
1時間ほど前、葵を落胆させた7冊目の28ページ目。開いたままの7冊目の真っ白なページに1文字、1文字、ゆっくりと活字が浮かび上がって現れる。
そして、今まで明かされていなかった7冊目の主人公の名前が遂に記載される。アオイ、と。