「ふーー……。今日も疲れましたね」
「んっ!? ……ああ、そうだね。正直、アオイ君の頑張りには驚きだよ。
2週間でEランク昇格。久々の期待の新人だって、ギルドの人も驚いていたじゃないか」
アオイがこの世界へ召喚されてから、20日目が過ぎていた。
夜中、眠ろうと布団の中で目を瞑っていると、やはり家族の事を思い出してはどうしても寂しく思う事はあった。
あの永遠に広がっていると思えた森を抜け、このモテストの街に腰を落ち着けてからの一週間はそれが特に酷かった。
だが、『勇者の刻印』の影響か、以前の自分に戻りたくないという嫌悪感からか、自分が生まれ育った元の世界へ戻りたいという望郷の念はさほど強く無かった。
陽が昇る頃に起きて、お昼はモンスター退治。夕方、お腹をぺこぺこに空かせて帰り、夜は日中の疲れを癒す為にグッスリと眠る。以前とは比べものにならないほど充実した生活サイクルもそろそろ出来上がり始めていた。
しかし、それ等の楽しい毎日はやはりナルサスの存在があってこそだった。
「えへへ……。ナルサスさんのおかげですよ。私だけだったら、とても、とても……。」
「そんな事は無いさ。……っと、そうだ。今日はEランク昇格のお祝いをしよう」
「えっ!? 本当ですか?」
このモテストの街へ着き、ナルサスがアオイに教えたものは更なる戦闘訓練と日々の糧を得る方法だった。
もっとも、その2つを兼ね備える打って付けの職業がこの世界には有る為、ナルサスの苦労はさほど無かった。
そう、冒険者である。冒険者として、アオイを登録すると、ナルサスは冒険者ギルドの依頼を引き受けて、報酬を得ながら多種多様なモンスターとの戦闘を経験をアオイに学ばせた。
午前中はアオイの実力に見合ったモンスター狩り。午後は森の奥深くへと進み、今すぐは役に立たずとも将来の糧とする為、冒険者ランクで言うBランク、Cランクの強敵、難敵とナルサスが戦う様を観戦させた。
そうした成果が実り、アオイはようやく一端の戦士に見えるまで成長していた。相変わらず、戦闘前はどんな雑魚にも怯えて、たまに悲鳴もあげるが、ナルサスが克服を最課題としていた『へっぴり腰』は今ではすっかり消えていた。
その代わり、次の新たな問題が浮き彫りとなり、それがナルサスの頭を激しく悩ませていた。
「七つ角屋のフルーツタルトを食べたいと言っていたろ?
なら、今夜のデザートはそれだ。勿論、お祝いなのだから、私の奢りでね」
「わわっ!? 良いんですか?」
「フフ……。任せたまえ。アオイ君のおかげで私の財布も潤っているしね」
「はい! なら、お言葉に甘えちゃいます!」
この時、アオイはナルサスの反応の悪さに気付いていた。
だが、ナルサスも疲れているのだろうと深く考えず、アオイは今日と同じ明日が有ると信じて疑わず、幸せ一杯だった。
******
「アオイ君、良いかな?」
「は、はい……。き、来て下さい」
ナルサスとアオイの2人が定宿としている宿は寝泊まり専用の宿である。
大通りから路地を一本外れた場所にあるが故、夜は静かで隣の部屋の鼾も聞こえず、トイレが共同、お風呂も共同ではあったが、まずまずの宿だった。
唯一の難点を言うなら、部屋の賃貸契約が週単位となっており、纏まった金がどうしても必要となる為、アオイの様な駆け出しの冒険者が得られる収入では少し厳しく、他で節約するなどの経済観念を必要とした。
「じゃあ、行くよ?」
「……は、はい」
無論、ナルサスとアオイは男と女。借りている部屋は別々の一人部屋。
ところが、夕食も、お風呂も済ませて、あとは寝るだけの遅い夜。ナルサスはアオイの部屋を訪れていた。
家具はシングルベットとサイドテーブル、クローゼットの3つのみ。あとはベット横に通路を兼ねた荷物を置くスペースが有るだけの狭い部屋。
当然、何をするにしてもベットに隣り合って座るしかないのだが、ベットに座っているのはナルサス1人だけ。アオイはナルサスの膝の上に乗り、背後から抱き締められていた。
「んぁっ!? んんっ……。ぃやっ……。ぁぁっ……。」
サイドテーブルに置かれたランプの淡い灯火が揺れる中、より密着して重なり合う2人の影。
アオイが口を大きく開け放ち、顎から腰までを弾かれた様に反らして、ナルサスから逃れようとするが、それをナルサスは許さない。より拘束を強めて、ナルサスの腕の中、アオイの身体は何度も痙攣して震える。
夜が更けて、年頃の男女が狭い部屋に2人っきり。時折、女が漏らす甘く切ない声。これだけの条件が揃えば、2人が何をしているかなど説明するのは野暮というもの。
「やぁっ……。はぁぁっ……。はぁっ……。はぁっ……。」
そう、吸血である。ナルサスは吸血鬼特有の鋭い犬歯をアオイの首筋へ突き立て、その体内に流れる鮮血を啜っていた。
ある秘術によって、ナルサスは吸血鬼の天敵である日光を克服済みだが、吸血鬼が闇の眷属である以上、日中の活動はどうしても様々なマイナス的影響を受ける。
それこそ、夜は無尽蔵とも言える体力と精神力を誇るが、昼間は何もしていなくても体力を消耗してゆき、魔術の行使にも制限を受けて、何倍もの集中力を必要とする。
正直なところ、アオイが居る手前、ナルサスは常に涼しい顔で平然としてはいたが、最近は疲労困憊を重ねて、睡眠程度では抜けきらない疲労が随分と蓄積し始めていた。
それを解消しようと、ナルサスがアオイへ頼み、一週間前から始めたのが、この吸血だった。
「ぁっ!? らっ……。めぇ……。だめぇ……。ぁんっ!?」
なにしろ、アオイは未だ男性経験を持っていない乙女。吸血鬼にとって、処女の生き血は当たり年のワインに勝るほどの美味。
しかも、アオイは神によって認められた勇者。その血に含まれた魔力は驚くほどに濃厚であり、ナルサスの長い生涯においても、これほどの極上品は他に無かった。
だが、吸い過ぎては当然の事ながらアオイの命に関わる。ナルサスは強い未練をより強い自制で封じ、アオイの首筋から口を離して拘束も解く。
「ありがとう。もう充分だよ」
「えっ!?」
しかし、振り返ったアオイの表情はまだ足りないと言っていた。
言葉に出してこそはいないが、その瞳を潤ませてながら頬を上気させる顔は明らかに『もっと、もっと』と訴えていた。
切なそうに寄せられた眉、火照った荒い息づかい、汗から滲み出ている甘い匂い。それ等が蠱惑的にナルサスの封じた自制を全力で解きかかるが、それが逆にナルサスの熱を冷まさせる。
勿論、ナルサスも男。一瞬、欲望のままにアオイを押し倒してしまえと熱気を沸かせたが、今のアオイが正常でないと知っていたからである。
「ほら、しっかりしなさい」
「……あっ!?」
ナルサスはアオイの腰を掴み、自分の膝の上から退かすと、アオイを隣に座らせた。
たった、それだけの行為だったが、アオイは愕然と大きく見開いた目でナルサスを見つめた後、その温もりを感じたいが為、その身をナルサスへ寄せる。
だが、アオイが腕をナルサスの腕に絡めるよりも早く、ナルサスは溜息を深々と漏らしながら立ち上がった。
「水、飲めるかな?」
「はい……。頂きます」
そして、サイドテーブルに置かれたコップと水差しを手に取り、水を満たしたコップをアオイの目の前に差し出した。
即ち、『水を飲んで頭を冷やせ』と言う意思表示を受け取り、アオイは今までに無い冷たいナルサスの態度に驚きながら、唇を湿らす程度の水を口に含むと、ナルサスの顔を見る事が出来ず、視線を伏して顔も俯かせた。
膝の上、両手で包み持っているコップの水面に今にも泣き出しそうなアオイの顔が浮かんでいた。何がナルサスの機嫌を損ねたのだろうかと思い悩み、皺を眉間に刻む。
「アオイ君……。君が私へ好意を持ってくれるのは嬉しい。
だが、その感情は偽りのものだ。本物だと勘違いしてはいけない。だから、度を超してもいけない」
その萎れきった姿に心がざわめき、ナルサスは右手を思わず伸ばすが、触れる寸前で慌てて思い留まり、腕を固く組む事で自分自身を戒めた。
「……えっ!?」
たっぷりと数秒の間を空けて、アオイがようやく顔を上げる。ナルサスが何を言っているのかが解らなかった。
アオイにとって、ナルサスはこの世界での常識や知識を、戦い方を、生きる術を教えてくれた頼りになる大人だった。
しかも、アオイがこの世界へ召喚された現場に立ち会っただけの赤の他人にも関わらず、乗りかかった船だからと苦笑して、その代価を求めずにである。
この世界に身寄りを全く持たないアオイからしてみれば、ナルサスの存在はとても有り難かったが、その反面で何も返せないのが心苦しかった。
それ故、ナルサスが吸血を求めてきた時、アオイはとても嬉しかった。やっと恩返しが少しでも出来ると。
「はっきり言おう……。
君が私へ抱いている心、それは只の依存心だ。決して、恋なんかじゃない」
「ち、違っ!? わ、私は……。」
ところが、その吸血に問題があった。
痛いのは噛み付かれて、その牙が突き刺さるまで。血を吸われる度、全身の血管という血管の中で血が一斉に蠢くのだが、その蠢きが性的な快楽に良く似ていた。
アオイも年頃の女の子である。それ相応の知識は持っているし、どうしても高ぶりを抑えきれない夜は安眠の為の処方薬として致す事もあった。
但し、アオイの場合、事後の虚無感が酷く強かった為、日頃から異性の性的な視線を苦手としている事もあって、その方面は基本的に消極的だった。
だが、そんなアオイの価値観を打ち壊すほど、ナルサスの吸血は凄まじかった。それまでアオイが高みだと認識していたモノを嘘と教え、真実の高みの素晴らしさを教えた。
それこそ、吸血の初体験時、たった一吸いで達してしまい、あっさりと気絶。それが日を重ね、ようやくギリギリのところで耐えれる様になってきたところ。
こうなってくると、ナルサスにもっと吸って欲しい、ナルサスにもっと喜んで貰いたい、という気持ちがアオイの中に生まれ始めていた。
それはあたかも恋人を想う気持ちに似ていた。吸血という行為が夜に行われる2人だけの秘め事であり、アオイにとっては性的な快楽が伴っていた為である。
「いいや、違わない。アオイ君、君はこの世界で初めて出会った私に懐いているだけだ。
そう、卵から生まれた雛が初めて目にしたモノを親と認識するのと同じだよ。
だが、私自身にも失敗はある。この街へ着き、君の冒険者登録を済ませた時点で別れるべきだった。
つい、それを居心地の良さから、今日までズルズルと……。
その上、度し難い事に吸血までしてしまった。
恐らく、聡い君なら気付いていると思うが、吸血には2つの効果がある。
一つは痛みを緩和させる為の催淫効果。もう一つは吸血というタブーを緩和させる為の魅了効果だ。
その2つが君の中にある私へ対する依存心をより強めてしまった。これ以上、酷くなったら、完全に君は駄目になる」
しかし、その想いをナルサスは真っ向から否定した。
首を左右に振り、自分自身の行動を悔いながら、その根拠を説くと、再び首を左右に今度はゆっくりと振った。
「そ、そんな事は有りません! わ、私はナルサスさんの事を……。」
「では、この一週間の自分の行動を思い返してみると良い。
私とこの宿屋の主人、冒険者ギルドの受付嬢、この3人以外と会話を交わした者が他に居るかな?」
「そ、それはっ!? そ、その……。」
当然、アオイは否定する。出会ってから、まだ20日しか経っていないとは言え、その想いに自信があった。
即座に反発して叫んだが、その勢いは最初だけ。ナルサスが上乗せた根拠に反論どころか、言い訳すら見つからず、たまらず視線を伏す。
会話が途切れて、部屋が沈黙に満ちる中、ナルサスがこれ見よがしに溜息を深々と漏らす。
「……1人も居ないだろう?
この3日間、午前中は他のパーティと共同依頼を行っていたにも関わらずだ。
もしかしたら、男が怖いのかとも考え、今日は女性が多いパーティを選んでみたが……。
君は誰とも打ち解けようとはしなかった。……いや、そのつもりも無かったと言うべきか。
君より若い女の子が居て、向こうから友好を結ぼうと何度も話しかけてきたと言うのに……。
君ときたら、私へ困った様な顔を向けるだけ。酷い時は私の背に隠れる事すらあった。……それでは駄目だ。駄目なんだよ」
そう、ナルサスへ依存しきると共に肥大化した人見知り。これこそが新たに浮き彫りとなったアオイの問題点だった。
それは傍目にはっきりと解るモノだったらしいが、この重大な問題点をナルサスは2週間も見逃してしまい、ギルドの受付嬢から忠告されて初めて知った。
この問題点を慌てて解決しようと、ナルサスは策を練ってみたが、その結果は酷いもの。パーソナルスペースが狭い、広いという問題の以前、アオイはパーソナルスペースへ誰も入れようとしない。その円の中はナルサスたった1人だけでほぼ完結していた。
アオイは自覚があるだけに何も言い返せずに口籠もり、ナルサスは息を着くと、今度は何故に駄目なのかを説いた。
「アオイ君……。この世界へ来たのは君の意志では無い。それは確かだ。
だが、しかしだ。君はあの時、黄金剣を紛れもない自分の意志でその手に取ったんだよ。
その瞬間から、君には義務が与えられた。魔王を倒すという義務をだ。
今更、嫌だと言っても、逃げる事は絶対に出来ない。運命が君と魔王を必ず交錯させる。
その時、今の様に心が弱いままでは絶対に倒せない。魔王は君が考えている以上に強大だ。……確実に殺される」
実際、6代目勇者と共に戦ったナルサスだからこそ、その言葉は重みがあった。
魔王は一般常識を遙かに超越した強さを持っているが、魔王の真の強さとはもっと別のところにある。
それは己こそが1番だと信じて疑わず、群れたがらない魔物や魔族を従わせて、国すらも簡単に滅ぼしてしまう巨大な軍事力を造り出してしまうカリスマ性である。
只さえ個体の強さで負けている人類である。この大陸には幾多の国があるが、たった1つの国が魔王へ挑んだところで絶対に勝てない。大陸の地図から1つの国が消えるだけ。
それ故、人類は一丸となって立ち上がらなくてはならないのだが、人間とは自分の尻に火が点かない限り、誰かがやってくれるだろうと基本的に人任せであり、魔王という脅威を利用してまで利益を得ようとする者すら居るどうしようもない生き物。
つまり、勇者とは魔王と対峙するだけの強さを持ちながら、そう言った者達を纏めるカリスマを持ち、魔王の軍勢と戦う尖兵達の旗印となる者の事を指す。
なら、今の延長線上にあるアオイがそれを来るべき将来に成せるかと言えば、ナルサスは絶対に不可能だと結論付けた。
「だから、決めた。今夜、私はこの街を離れる」
「な゛っ!?」
そして、アオイを勇者として成長させる為には荒療治しかないとも考えた。
決して、人間は1人では生きられない。依存の対象である自分が居なくなれば、アオイは己で必然的に立つしか無くなり、それはアオイの成長に繋がる筈だと。
だが、アオイにとって、それは寝耳に水だった。このナルサス以外に頼れる者が誰も居ない世界にて、これから先をどう生きていけば良いのかがまるで解らなかった。
「まあ、そろそろ潮時ではあったんだよ。
なにせ、私は吸血鬼だからね。
こうして、友情をアオイ君と何十年ぶりに築けたけど、吸血鬼は基本的に人類の敵だ。
実際、私達を目の敵にしている鬱陶しい輩も居るし……。
もうずっと昔になるが、やんちゃをしたせいもあって、同じ場所には長く居れないんだよ」
「だ、だったら、私も連れて行って下さい!」
「それは無理だ。私は吸血鬼、君は人間、住んでいる世界どころか、生きている時間さえも違う」
「な、なら、私を吸血鬼にして下さい! で、出来る筈です! そ、それなら、私だって!」
アオイは勢い良く立ち上がると、あたかも取って付けた様な理由を列べて、肩を竦めるナルサスの胸を掴んで縋った。
それは子供の駄々に等しかったが、アオイはとにかく必死だった。今先ほど説かれた自分の問題点を忘れて、ナルサスに付いていこうと必死に縋った。
「アオイ君……。君は戻りたくないのか? 自分が生まれた世界に」
「……えっ!?」
「父親や母親、1歳年下の弟だったか……。もう一度、会いたくは無いのか?」
「で、でも、どうやって……。」
しかし、ナルサスはアオイを一瞬で黙らせる魔法の呪文を知っていた。
目論見通り、アオイは瞬く間に勢いを失い、涙を零れんばかりに溜めていた目を茫然と見開いて固まった。
「君さえ望めば、また会えるさ。
少なくとも、チャンスが1回だけ有るのを私は知っている。それが魔王を打ち倒した時だ。
何度も言うが、魔王は強大な存在。その身に内包している魔力も桁違いなくらい膨大だ。
だから、魔王を倒した時に放出される魔力を利用すれば、世界の壁にだって穴を空けられる。
そう、君は戻れるんだよ。自分が生まれ育った世界に……。
しかし、吸血鬼になってしまったら、私との縁が君をこの世界に縛り付けてしまう。そうなったら、2度と元の世界には戻れなくなる」
その隙を突き、ナルサスは自分の胸を掴んでいるアオイの指を解くと、アオイの瞳を真っ直ぐに覗き込みながら身体の内を循環している魔力を練り上げてゆく。
それは吸血鬼が持つ特殊能力の1つであり、眼を合わせた者に対して、魅了、暗示、催眠の効果を与える事が可能な『魔眼』と呼ばれるもの。
「それにはっきりと言ってしまえば、足手まといだ。
勇者の刻印の恩恵か、その成長速度は恐ろしいが……。私の隣に立つには、まだまだ力不足だよ。
そもそも、君を連れて行ったら意味が無い。
だから、強くなるんだ。アオイ君……。次に会った時、私が君を見捨てたのを悔しがるくらいに強くなるんだ」
「そんな! ナルサスさん、私は……。
えっ!? ……あっ!? ずる……。い……。」
アオイが気付いた時はもう遅かった。
突如、抗えないほどの凄まじい眠気が襲い、膝の力が勝手に抜けて踏ん張るも踏ん張りきれず、腰がベットへ落ちていた。
それでも、アオイは左太股を左手で抓り、睡魔に抵抗して、ナルサスへ震える右手を伸ばすが、それが届く間際、瞼が重みに耐えきれず閉じてしまい、伸ばしていた右手を空振らせて、ベットから転げ落ちる。
「大丈夫……。お前なら、きっとやれるさ。俺が保証するよ」
ナルサスはアオイをお姫様だっこ。ベットの上にきちんと寝かし付けると、サングラスを外した。
その紫色の裸眼にアオイの寝顔を焼き付ける様に暫く眺めた後、少し躊躇いながらもサングラスをサイドテーブルの上に置いて、部屋を出て行った。