「みんな、起きろ! 敵襲だ!」
先ほど寝ず番の見張りを交代して、ようやく微睡み始めたところに発せられた叫び声。
アオイはくるまっていた毛布を跳ね除けて起きると、すぐさま手元に置いてあった剣を鞘から抜いて構えた。
当然、就寝に邪魔な鎧は脱いでおり、今は制服姿。直接、夜の肌寒さを感じさせる肌に頼りなさを感じたが、鎧を着ている暇など有りはしない。
周囲でも冒険者達が次々と目を醒まして、各々の武器を手に取り、アオイ同様に暗闇の中の気配を頻りに探る。
「レイモンドさん、例の魔術を!」
明かりは2列縦隊に列ぶ6台の馬車を取り囲んでいる四辺の焚き火の炎のみ。
その頼りなさ過ぎる明かりと早くも聞こえてきた金属同士が打ち鳴らされる音に怯え、たまらずアオイが叫ぶ。
「ふぁ~~あ……。
言われずとも解っている。……フラッシュフラワー」
しかし、魔王は大きな欠伸を漏らして、余裕そのもの。頭を面倒臭そうに掻きむしると、その右手を夜空へと掲げた。
赤白く発光する小さな玉が緩やかに上ってゆき、その大きさが点となって消えたかと思ったら、爆発音と共に数多の小さな火花を散らして弾け、大きな光の円を夜空に描いて、辺りを眩く照らす。
その明かりは2、3秒程度に過ぎなかったが、周囲は見晴らしの良い草原。闇夜の中に潜んでいた者達の位置を暴くのには十分すぎる時間だった。
しかも、アオイの仲間達は今の魔術が見た目だけの単なるこけおどしだと知っていたが、襲撃者達は知る由もなく、警戒に思わず足を止めた。
「そこっ!?」
それは大きな隙となり、アオイは最も手近な者に目標を定めると、間合いを一足飛びで詰め、剣を右肩奥から袈裟切りに振るう。
その攻撃は狙いを違わず、見事に命中。アオイの目標となった者は左肩から右脇腹へと深く斬られて断末魔をあげる。
「ぎゃーーーーっ!?」
「……えっ!?」
ところが、アオイは幸先の良い一勝を得ながら愕然と目を見張り、その顔色を瞬く間に青ざめさせた。
何故ならば、目標との距離が詰まった事により、自分が今ほど命を絶った相手が魔物などではなく、人間の中年男性だった事実を知ったからである。
たちまちアオイは戦いの最中にありながら茫然自失。辛うじて、剣は落とさなかったが、その両腕をワナワナと震わせて後退る。
「この女! よくも仲間を!」
「……えっ!?」
勿論、その隙を近くに居た別の襲撃者は見逃さなかった。
冒険者達の中に女が居た場合、可能な限りは生け捕れという事前の命令を忘れ、仲間を殺された怒りに渾身の一撃をアオイの脳天目がけて振り落とす。
アオイが向けられた殺気に慌てて我を取り戻した時、その刃は既に目の前にまで迫っており、思わず目をギュッと瞑った次の瞬間だった。
「愚か者が! 何をボサッとしている!」
「……えっ!?」
「くうっ!?」
罵倒と共に襟首を強く掴まれ、アオイは後方へたたら踏み、魔王が入れ替わる様にアオイの前へ立ち塞がった。
そして、魔王は振り下ろされた刃を顔の前に翳した右腕で受け止めるが、当然の事ながら受け止めきれず、魔王の右腕は切断。その場に鮮血を撒き散らして落ちる。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!?」
その瞬間、闇夜に剣戟の音が未だ激しく鳴り響く中、それ等を上回るアオイの悲痛なまでの悲鳴が轟いた。
******
「……はっ!?」
魔王は笑って忘れろと言ったが、とても忘れられず、その瞼に焼き付いた光景。
数日前に起こったソレが夢の中で繰り返され、アオイは夢から一気に覚醒。目をカッと見開かせながら上半身を跳び起こした。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……。はぁ……。」
季節はもう完全な秋だと言うのに、寝苦しい熱帯夜を過ごしたかの様に滴っている大量の汗。
アオイは肩を懸命に上下させながら額を右腕で拭うと、激しい喉の渇きを覚えて、枕元に置いた水筒へ手を伸ばした。
「んぐっ……。んぐっ……。んぐっ……。ぷっはぁ~~……。」
とっくに温くなっている水だったが、喉を美味しそうにゴクゴクと鳴らして、水が口端から零れているのも構わずにがぶ飲み。
一旦、一息をつき、すぐに水筒を再び傾けようとするも待ったがかかる。
「それ以上は止めておけ。腹を壊すぞ」
「ご、ごめんなさい! お、起こしちゃいましたか? ……って、あれ?」
その声に慌てて顔を振り向けるが、焚き火を間に挟んだ向こう側で寝ていた筈の魔王が居ない。有るのは寝ていた毛布の痕跡のみ。
しかし、空耳では無かったのは確か。この場が街道途中の森の中だけに不安が湧き起こり、アオイは魔王の姿を求めて、辺りをキョロキョロと見渡す。
「ひぃっ!? ……あっ!? ごめんなさい。何でもないの」
ところが、魔王の姿は何処にも無い。居たのは焚き火と自分達を守護して囲み立っているスケルトンが4匹。
その存在を忘れていたアオイは思わず息を飲み、スケルトン達から『どうしたの?』という視線を向けられ、慌てて突き出した両手を左右に振って謝罪する。
なにせ、彼等は魔王の魔術によって召喚された者達であり、魔王とアオイに代わり、野営の寝ず番を引き受けてくれている頼もしい存在。
とは言え、その見た目は白骨。志半ばで散った冒険者の成れの果て、生前に愛用していた武器を持ち、虚ろな意志を持って動くアンデット種。闇夜の中、その存在はやはり怖かった。
「くっくっくっくっくっ……。
お前を見ていると飽きないな。道化師の才能も有るんじゃないのか?」
さすがのアオイも二度目はすぐに気付いた。その笑い声が探すまでもなく、直下から聞こえてきたのを。
視線を反射的に下げてみれば、毛布が不自然に盛り上がっており、自分のモノではない俯せとなった下半身が毛布の先から出ているのを見つけた。
これ等が意味する答えは1つしかない。
「どうして、そんな所に居るんですか? レイモンドさん」
「うむ、当然の疑問だな。
実を言うと、用を足しに目を醒ましたんだが……。帰ってきたら、お前が魘されているのを見つけてな。
どうしたものかと見ていたら、妙にムラムラと……。いや、違う。苦しそうだったから、俺は少しでも楽にしてやろうと……。」
アオイがまさか、まさかと思いながら、膝にかかっている毛布を両手で持ち上げると、魔王がそこに居た。
薄暗い毛布の中、アオイの両脚を左右に開かせて、その間に割って入り、股間間近からアオイを見上げている魔王が居た。
有り得なさすぎる目の前の現実が信じられず、悲鳴をあげかけるが、次の瞬間。アオイは羞恥を一気に忘れるほどの重大な秘密を思い出す。
「も、もしかして……。み、見ました?」
そう、左太股の付け根内側にある『勇者の刻印』の存在である。
当然、魔王はソレに気付いただろうし、あらゆる分野に深い造詣を持つ魔王なら、ソレが何であるのかも解ったに違いない。
その証拠に魔王の視線の先がソレを再確認する様に正面へ一旦は向けられ、再びアオイへと戻った。
アオイは愕然と目を見開き、鼓動をドキリと痛いほどに鳴らせると共に冷水を頭から浴びた様な恐怖に打たれる。
「ふっ……。『生えていない』事くらい気にするな。少なくとも、俺は嫌いじゃないぞ?」
「ぁんっ!?」
ところが、魔王の応えは実にとんちんかんなモノだった。
挙げ句の果て、アオイは恐怖ばかりが先行するあまり気付かなかった重要な秘密以上の重大な事実に今更ながらに気付かされる。
「むしろ、誇って良い。俺が知る限り、天然モノは貴重だぞ?」
魔王がアオイを真っ直ぐに見つめながら、大真面目な表情で応えたその時。
鼻で笑った吐息がアオイのとってもデリケートな部分を直撃。小さな快感が直撃部分から背筋を駆け上り、アオイが甘い吐息を漏らして、身体をビクッと震わす。
一拍の間の後、その感覚が何なのかを確かめる為、アオイが下を怖ず怖ずと覗き込むと、やっぱり履いていなかった。就寝前は着けていた筈のスカートは勿論の事、ショーツさえも。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!?」
そして、闇夜に魔王を何度も激しく殴打する音が響く中、それ等を上回るアオイの羞恥極まった絶叫が轟いた。
******
「はぁぁ~~~……。」
街道の途中、森と森の合間にある河原。
そこそこの広さが有り、水の確保も、燃料の確保も苦労しない。運が良ければ、魚も捕れる。
正しく、休憩場所としては打って付けの場所。先駆者達が石で組んで作った竈跡が彼方此方に有り、先ほどアオイと魔王も昼食を済ませたところ。
魔王は所用で居らず、アオイは荷物番。せっかくの休憩を生かそうと、鎧を外して、黒のニーソックスも脱ぎ、身軽な制服姿で手頃な石に座り、歩き疲れに火照った素足を穏やかな川の流れに晒していた。
「はぁぁ~~~……。」
現在、この大陸は幾つかの人間の国でほぼ占められているが、人間は大陸の全てを踏破した訳では無い。
街道が各地の村や町を繋ぎ、大陸の端から端まで旅をする事は可能だが、村や町の敷地から一歩でも外へ出たら、そこは基本的に魔の領域である。
そもそも街道と言っても、その殆どは整備されていない。最初は獣道に過ぎなかったモノが何十年、何百年という長い時をかけ、人々が行き交う事によって踏みならされた結果的として街道となっているだけ。
一応、その土地を支配している領主が街道を管理する事となってはいるが、せいぜい道先案内の看板を立てる程度。よっぽどの被害が重ならない限り、街道やその周辺に出没する魔物や盗賊は放置される。
それ故、街道を行こうとする者は絶対に単独行動はしない。領主軍の移動を利用したり、冒険者を護衛に雇う。これは基本的に根無し草の冒険者も同様であり、依頼を介しての移動がベストだが、それが無い場合は冒険者ギルドで同行者を集う。
「はぁぁ~~~……。」
ところが、アオイと魔王はたった2人で旅をしていた。
もっとも、最初からそうだった訳ではない。当初、アオイと魔王の2人も他の冒険者達に倣い、ある商人の護衛依頼に就き、商人や冒険者、旅人の総勢40人ほどの旅団の中に混じっていた。
問題が発生したのは、モテストの街を出発してから5日目の深夜。旅団は盗賊団の夜襲に遭い、アオイは初めて人間を相手に剣を振るい、その相手を殺害してしまった事実に激しく動揺した。
その上、そんなアオイを庇い、魔王が右腕を切断されたのを目の当たりにして、アオイはこの世界での倫理観と自分が生まれ育った世界での倫理観の相違に改めて気付かされて落ち込み、戦士として完全に使えなくなった。
人間どころか、前日まで平然と戦っていた魔物ですら、腰が引けて戦えなくなり、戦いの直中をただただ右往左往するのみ。二度も無様な姿を晒した。
その結果、7日目に立ち寄った小さな村にて、護衛の冒険者達を纏めている者から解雇通告を受けて、アオイと魔王は取り残されてしまい、そこから2人旅となったのである。
ちなみに、切断された魔王の右腕は件の戦いの後、魔王が持つ魔術と特殊能力によって、あっさりと接着。さすがに翌日は指先に多少の不自由はあったが、今では完全に元通りとなっている。
「はぁぁ~~~……。」
さて、先ほどからアオイが何故に何度も溜息を鬱陶しく漏らしているかと言えば、その原因は魔王の事に他ならない。
2人が出会ってから、既に1ヶ月が経過。ここまで行動を共にしておきながら、アオイは魔王と何故に行動を共にしているのか、その感情をずっと持て余していた。
あの出会った日、魔王から申し込まれた『料理番』はきっぱり、はっきりと何度も断ったにも関わらず、魔王はその後もアオイに平然と付きまとった。
翌朝、冒険者ギルドを訪れれば、『来るのが遅い』と怒鳴って出迎えられ、その日の帰途に『お前の泊まっている宿は何処だ』と尋ねられ、そのままアオイの定宿へ押し掛けてきた。
1週間も経つと、周囲はアオイと魔王を1組のパーティと完全に捉えており、馴染みの受付嬢によって、正式なパーティ登録もいつの間にか済まされていた。
そして、半月が経った頃。魔王から『この街に未練はもう無い。次の街へ行くぞ』と告げられて、アオイはせっかく馴染んできた街から離れるのをボヤきながらも素直に従った。
「嫌いじゃないんだよね……。」
その呟きの通り、アオイは決して魔王を嫌ってはいなかった。
性格は尊大であり、歯を衣着せぬ物言いが原因となって、他者とトラブルを起こす事もあったが、それで助かる事も多く、アオイは引っ込み思案な自分には丁度良いと感じていた。
特に野外での食事にて、いつもアオイの手料理をがっついては美味い、美味いと言ってくれ、それがアオイは何よりも嬉しかった。最近、その魔王の姿を眺めていると、心がほんわかと暖かくなり、アオイの密かな楽しみにもなっていた。
だが、女性にとてもだらしない点。お金が貯まる度、歓楽街を訪問しては朝帰りを繰り返す件に関して、それを初めて知った時はショックを受けたし、とても許容が出来ない嫌悪感を抱いていた。
その反面、アオイにはそう言った性的な視線を全く向けず、それはそれで女として傷つくモノがあり、ちょっぴり癪に触っていたのだが、とうとう昨夜は身の危険を感じる様になった。
無論、散々痛めつけて、もう二度としない事を確約はさせたが油断は出来ない。今夜は剣を抱いて寝ようとアオイは決意していた。
もし、ここが街だったら、魔王へ絶交を告げて別れていたかも知れないだが、ここは危険極まりない旅の途中。魔王と別れる選択肢は無かった。
「はぁぁ~~~……。」
また、アオイは自分を庇ったが為、魔王が右腕を切断された件に関してを負い目に感じていた。
魔王は気にするなと言ってくれたが、アオイには無理だった。ふと気付くと、魔王の右腕を目で追っている自分が居た。
それだけではない。すっかり戦えなくなった件に関して、何やかんやとボヤいてはいたが見捨てずにいてくれ、克服するきっかけを与えてくれたのも感謝していた。
但し、その方法たるや過激であり、ふと真夜中に目を醒ますと、数匹のスケルトン達に囲まれており、魔王は何処にも居ないというもの。
それ等を倒しきった後、魔王が現れての種明かし。スケルトン達は魔王の召喚したモノであり、魔王が操っていたモノだと知ったが、アオイは命の危機に無我夢中となり、怯える余裕もなく剣を振るっていた。
おかげで、剣を再び振るえる様になった。この5日の間、魔物の襲撃が既に3回あったが、その全てを難なく退けており、多少なりとも自信を取り戻していた。
しかし、あの夜に盗賊の命を絶ってしまった心の傷はやはりまだ癒えていない。魔物ではなく、盗賊がまた襲ってきたら、剣を取れるかは解らなかった。
「よう、お嬢ちゃん。こんな所でどうしたんだ? 迷子か?」
噂をすれば、影。そんな事を考えていたら、いかにもと言った風体の男達が現れた。
街道が伸びている左右の森からではなく、正面の森の藪の中からである。揃いも揃って、下卑た笑みを浮かべており、その数は男ばかりが十数人。
持っている武器は剣、槍、弓、短剣と様々で統一性が無く、防具も同様。冒険者という可能性もあったが、笑みに品が無さ過ぎ、見るからに盗賊団と言った集団だった。
「そ、それ以上、近寄らないで下さい!」
アオイは胸を動揺にドキリと打ち、慌てて立ち上がって叫ぶ。
その瞬間、盗賊達は立ち止まったが、顔を見合わせると、下卑た笑みをニヤニヤと深めて、すぐに歩き出した。
なにしろ、この場に居るのはアオイ1人。水に濡れるのを嫌ってか、アオイの剣と鎧は食事を行った場所に置いてあり、それは一息ではとても届きそうにない距離。その両方を盗賊達は事前に確認済み。
しかも、盗賊達は知っていた。今、アオイが立っている川は中央部分が急に深くなっており、肩まで沈む深さがあるのを。例え、それを越えたとしても、反対側の狭い河原は春の急流に削り取られた高い土の壁。退路は何処にも無い。
「おいおい、そんなに怯えるなよ?」
「そうそう、俺達と一緒にイイ事をして遊ぼうぜ?」
そう、この場所は盗賊達の狩り場であり、アオイは狩り場に迷い込んだ美味しすぎる獲物だった。
盗賊達は怯えるアオイの姿にますますニヤニヤと笑い、事前に示し合わせた通り、アオイを半包囲して近づいてゆく。
それと共に盗賊達の視線が露骨なほどにアオイの顔や胸、腰、股間、足へと向けられ、思わず舌舐めずりを行う者まですら居る。
「も、もう一度、言います! そ、それ以上、近づいたら後悔しますよ!」
「かっかっかっかっかっ!? 後悔するってよ? お前等、どうする?」
アオイは顔を顰めての涙目。足を内股にガクガクと震わせる。
たまらない嫌悪感に吐き気を覚え、慌てて口元を右手で押さえながらも、左掌は盗賊達へ突き出して後退る。
盗賊達のボスだろうか、アオイの前方、半包囲の中央に位置する盗賊がアオイの警告に腹を抱えて笑い、顔を左右に振って、仲間達へ相づちを求めた次の瞬間だった。
「フィッシュオーン!」
「ぎゃーーーーーーーーーーっ!?」
アオイと盗賊達の真上、晴れ渡った秋空から愉快そうな声と共に紫電が走り、一番右端の盗賊へ落ちて炸裂すると、左隣の盗賊へ紫電が渡って炸裂。
それを順々に繰り返してゆき、盗賊全員が最終的に紫電を浴びて、放電するバチバチという音を激しく鳴らしながら強い閃光を連続的に瞬かせる。
「はわわ……。」
十数秒ほどして、その閃光がようやく止み、アオイは眩しさに思わず翳した顔の前の両手をゆっくりと下ろして息を飲み、開け放った大口を震わせる。
先ほどまで余裕ぶっていた盗賊達は全て地に伏していた。大半が失禁しており、どいつも、こいつも舌を目一杯に突き出しながら白目を剥いていた。
辛うじて、生きているのは左端の激しい痙攣を繰り返している3人のみ。4人目から右へ行くに従い、その焦げ具合はどんどんと酷くなってゆき、最初に紫電を浴びた右端の者に至っては完全な黒炭。煙をもうもうと立ち上らせている。
「大漁、大漁! 面白いくらいに嵌ったな!
それにもっと待たされるかとも思ったが……。お前、自信を持って良いぞ!」
「は、はぁ……。」
そして、聞こえてくる上機嫌な笑い声。
アオイが顔を引きつらせながら真上を見上げると、魔王が腕を組んで胸を張り、遙か上空からゆっくりと降下してきた。