「それでそのペペロンチーノ八世の行先に心当たりはあるの?」
いきなり行方不明の王様を探せと言われても、どうしたもんだか。
「ペスカトーレ五世じゃ!」
間違って覚えてた。てへぺろ。
「美味しそう!」
ティラミスちゃんそればっかりだね。王様見つけたらなんか美味しいもの買いに行こうね。
「なぬっ? 妖狐は人を食べるのか? 父上は美味しそうか!?」
いやいや、名前に反応してるだけだから。むしろ美味しそうなのはお姉さん……おっとまたオヤジ臭いセクハラ思考が。源三郎の影響かな?
「人間は食べないよぉ~」
「わはは、分かっておるわ。冗談じゃ!」
そんな会話をして笑い合う女の子二人。俺の人生でこんな華やかな光景を見る機会があるとは思わなかったなあ。
「それで、王様の心当たりはあるのですか?」
雄峰は丁寧な口調で十歳児に語り掛ける。王女様が相手なんだからこっちが普通なんだけどな。俺は変な気に入られ方をしたみたいで、敬語とか使わず子供として接してくれと言われていた。その方が気楽だからいいけど。
「ふむ、妾にはないが知っていそうな人物に心当たりがある。賢者じゃ」
けんじゃじゃ?
「ケンジャジャって奴が知ってるんですねぇ!」
「ケンジャジャではない、賢者じゃ!」
いやまあ分かるけどね。
「ふざけている場合じゃない。ケンジャジャさんを探そう」
真顔で言う雄峰。それふざけてるんだよね? まさか本気じゃないよね?
その賢者は森にいるらしい。
「ちゃんと探す為のアイテムも持ってきたのじゃ。『森の賢者レーダー』! 森の賢者がどこにいるか教えてくれる魔法の道具じゃぞ」
また微妙にハイテクなアイテムを……しかも探す対象がピンポイントすぎる。ここでしか役に立たないじゃねーか!
「森の賢者……いや、まさかね」
知っているのか雄峰?
「さあ、賢者を探しに森へ行くのじゃ!」
というわけでカルボナーラの隣にある森にやって来た。町のそばとは思えないほど鬱蒼とした森林が広がっている。鳥の声に加えて猿の吠え声みたいなのも聞こえてきた。
「モンスターが出たら頼むぞ、ソウタ」
おうっ! ……って、なんで俺?
「得意のジャグリングでモンスターの気を引くのじゃ!」
いや、普通に倒そう?
「なるほどぉ、モンスターが気を取られている隙に倒すんですねぇ」
「単に妾が見たいだけじゃ」
正直者かっ!
いや、マリナードが見たいって言うならいつでも見せてあげるよ?
もうピエロである事は変えようのない事実だしな、悪魔に宴会芸を見せるよりは子供を笑顔にする方がマシってもんだ。
「あっ、レーダーが光ってるよ!」
ホントだ、レーダーに光の点が映ってる。近いぞ!
俺達は賢者のいる地点を目指して足を速めた。
しばらく進むと、木々の合間に黒い影が見える。レーダーは確かにそいつを森の賢者だと示していた。
「いた! あれが森の賢者だ」
「すいませーん! あなたが森の賢者さんですかー?」
なんだ、モンスターにも出会わなかったし、順調じゃないか!
俺達は意気揚々と木々の間を抜けて――
「ウホ?」
そこには、ゴリラがいた。ウホッ?
「そ、そなたが森の賢者なのか?」
「ウホッ」
ゴリラは低い声で吠えると、のそのそと去って行った。
「……ああ、やっぱりゴリラだったか」
知っていたのか雄峰。
俺達は無言でカルボナーラへと帰るのだった。
◇◆◇
ニシローランドゴリラ
学名:ゴリラゴリラゴリラ
「森の賢者」とも呼ばれる、大型の類人猿。寿命は長く、50年近く生きるという。