この手の話にありがちな、なんやかんや理由を付けてご褒美をお預け……というような事はなく。
ティラミスちゃんは俺の右頬に唇を寄せた。
「お疲れ様!」
頬をくすぐる吐息、鼻孔をくすぐる甘いフェロモンの香り。そして柔らかい感触が俺を襲った!
俺は! ついに! 成し遂げたぞおおお!!
「良かったなぁソウタ」
「おめでとうソウタ!」
「おめでとうなのじゃ!」
わき起こる拍手。そうだ、俺はついに人生の勝利者となったのだ!
異世界転生を信じてトラックに飛び込んだら地獄逝きになった 完。
「はいはい、気が済んだら占ってもらうよ」
雄峰が盛り上がりに水を差した。えーまだ続くのー?(※もうちっとだけ続くんじゃ)
仕方ないなー。
さて、枝豆を大豆にしてくれるのはありがたいが、枝豆は何に使うんだろう?
「食べるに決まっとるだろ」
ですよねー!
占い婆さんは枝豆の一株を植木鉢に植え、何やら怪しげな呪文を唱え始めた。成長を早める魔法か?
「鉢よ、増えろ!」
ボンッと音がして、同じ枝豆の植木鉢がもう一つ出現した。
「すげえ!」
「増えたー!」
盛り上がる一同。
「何でも増やせるんですか?」
冷静に質問する雄峰の頭の中が俺にも読めた。すーぐ金儲けにつなげるー。
「何でもとはいかんな。増やせるのはこの鉢に植えた植物だけだ」
なんて使いどころの少ない魔法だ。いや、貴重な植物を増やせるのは結構役立ちそうだな?
「ヒッヒッヒ、さあ食いな」
増やした枝豆を塩茹でして振舞う婆。ちなみに鍋は黒猫に用意させていた。器用な猫だな、名前忘れたけど。
いつ占ってくれるんだろうとか大豆はどうなったとか思いつつも茹でられた枝豆を口に運ぶ。
美味い! テーレッテレー!
「美味しーい!」
ニコニコ笑顔で枝豆を食べる女子。
「ビールが飲みてぇなぁ」
源三郎の言葉にさり気なく雄峰も頷く。お前もビール派か!
「どうれ」
婆が手を振ると、グラスに入った泡立つ小麦色の液体がテーブルに現れる。
これはまさしくビール!
「うおおおお! あなたが神かぁ!」
そうか神はこいつだったか。って違う!
「にがーい」
ティラミスちゃんとマリナードは顔をしかめている。こら、子供に酒を飲ませるな!
もはや何をしに来たのか分からなくなってきた俺の横で、おっさん達の酒盛りが始まった。
「心配せんでも国王の居場所は占ってやるから安心せい」
安心した^^
「大豆はー?」
さすが食べ物の事は忘れないティラミスちゃん。その問いには不敵な笑みを返す神、いや占い師。
「ヒッヒッヒ、欲しいのはこれだろう?」
その手にはしっかりと熟した大豆が握られていた。いつの間に!?
「あなたが神か!」
源三郎の真似をするティラミスちゃん。美少女が言うと婆も神々しく見えてくるな!
「部屋も用意しておいたから今日はゆっくりしていきなさい。明日占ってやろう」
宿まで提供してくれるゴッド婆さん。
「しかし、あまりゆっくりもしていられんのじゃ」
さすがに自分の父親が行方不明のマリナードは焦った様子だ。そうだよな、心配だよな。
「急いだところでもう日は暮れておる。夜道を帰るわけにはいくまい」
神の言う通り、外はもうすっかり暗くなっていた。マリナードも渋々頷く。
こうして俺達は占い師の家で一夜を明かす事になったのだった。
◇◆◇
「……今日ぐらいはいい夢を見ておきな」
眠る颯太達の部屋に向かってサラトバッハが呟く。
窓から見える月は、不気味に赤く輝いていた。