「さあ皆さん、ピエロの芸で暗い気分を吹き飛ばしましょう!」
雄峰が宣伝をして回って、人を集めた。特にマリネラ王女だけは呼ばないといけないので、城の人に「王女様も是非!」と言って呼んできてもらった。
「ピエロの芸が見られるんですって?」
マリネラ王女がやって来た。マリナードから裏の顔とか聞いてるとちょっと怖いんだけど……怒らせたら蹴りが飛んできたりしないよね?
「ソウタさんは今は旅芸人でしたっけ?」
そういえばクラスアップして唯一スキルを覚えるのも目的だったな。今のレベルだともう一つ上の道化師になれるはずだ。ボス戦もありそうだし、なっとけばよかったか?
いや、より高度なオタ芸とか要求されそうだからな……源三郎と雄峰だけこの後クラスアップさせよう。
「はい、王様を見つけたらまたレベル上げに戻ります。ひとまず今は皆さんトルトーネの事で不安な様子ですので、余興で気を紛らわせて頂ければと思いまして」
喋るのは雄峰に任せておけばいいから楽だなー。
俺は雄峰の口上に合わせ、これまでに覚えたピエロのスキルを総動員して人々の気を引いたのだった。後は源三郎に任せた!
◇◆◇
ククク、上手いこと入り込めたぞ……おっと、ちゃんと心まで「女の子」になりきらなくてはな。
「非常用の脱出通路はこっちじゃ」
マリナード姫が案内をし、三人が後に続く。本当はこんなに人数いらないんだけど、モンスターの襲撃とかあった時のためね。颯太が時間を稼いでいる間に出口というか入口を調べないといけないから。
まあ、たぶん入口はあそこにあると思うけどね。
「隠し通路とかワクワクするなぁ」
セクハラ親父が少年のように目をキラキラさせて言う。キモい。
あんたはコソ泥だもんね。あ、今は大泥棒だっけ?
「この柱の裏から入れるのじゃ」
ふむふむ、こうして並んでいる柱の一本に進入口があっても確かに気付かないわね。通常の通路からは死角になっているから、知らなかったら見つけるのにかなり時間がかかりそう。
「すごーい! 本当に分からないね!」
「隠し通路じゃからな。そう簡単に見つかっては困る」
ティラミスの無邪気な言葉を聞いて、誇らしげに胸を張るマリナード姫。
「入り組んだりしているのか?」
方向音痴のアイちゃんは不安そうに通路を覗き込む。
「心配は要らん。非常時の脱出用じゃから通路は一本道じゃ」
確かに、急いで離れなくてはならない時に枝分かれした道を進むのは得策ではないわね。追手とか来たら後ろを塞げばいいんだし。
「さあ、ソウタの芸が尽きる前にさっさと行くぞぉ」
そんなことを言いながらだらしなく緩み切った顔で入っていく源三郎。どこまで隠し通路が好きなの?
あっ、もしかして女の子に囲まれてるのが嬉しいのかな? いつも颯太をからかってるわりに自分もエロい目で見てるものね。
暗い一本道をしばらく進む。暗いと言ってもぼんやりとした灯りが点々と続いていて、夜の屋外よりも明るい。これはヒカリゴケ(※暗い所で光るコケ。便利な生物)ってやつね。
「本当に一本道だなぁ」
少し残念そうに言うエロ親父。まああんたの本当の出番は夜の探索だからね。
「よし、もうすぐ出口じゃぞ」
何のトラブルもなく出口まで到着。当たり前だけどね。
「ここは……?」
出口を出ると、そこは森の中。そして目の前には……。
「ウホッ」
森の賢者が出迎えてくれた。
うん、知ってた。