目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

地獄の押しかけ女房

『ギャアアア!』


 ティラミスちゃんの放ったスキルにシールドを破壊され、そのまま身体を横一文字よこいちもんじに斬られた悪魔は絶叫した。


『なんだ貴様は! 一体何者だ!?』


 苦悶の表情を浮かべながらもまだ死なない悪魔は、ティラミスちゃんの正体を問いただした。確かに、この技はただの妖狐が使うような威力じゃない。


 ていうか、思いっきり見覚えがある。


「クラ……」


「まさか、クララなのか?」


 俺のセリフをさえぎって話しかけるライアン。邪魔すんなハゲ!


『クララ……フフフ、そう名乗ったこともあったね』


 ティラミスちゃんの口から、これまでの可愛らしい声とは違う、地獄の底から響いてくるような声が発せられた。地獄の底……なんだろう自分で言ってなんだけど妙にしっくりくるぞ?


 彼女は剣を置くと、身体を変化させていった。まず全身が真っ黒になってシルエットのようになった後、身体の形を変えていく。耳と尻尾が引っ込んで髪が地面につくほど伸びた。身体に色が付いて行くが肌の色はまだ黒く、大きく裂けた口にはギザギザの牙が並ぶ。


……そういえば漆黒の殺戮者とか自分で言ってたっけ。なるほどなー。


『我が名は黄泉醜女よもつしこめ。ここにいる颯太の押しかけ女房といったところかのう?』


 何それ!? 俺知らないうちに結婚してた!


 ヨモツシコメって何か聞いたことある名前だけど、ユウホウに聞いてみようか……ん?


 さっきクララちゃんもこの子(?)だったって言ってたよな。クララちゃんはヨミちゃんにそっくりで、ユウホウもヨミちゃんだと疑ってて……つまり、どういうこと?


「せんせー、さっぱり分かりませーん!」


 手を挙げてユウホウに助けを求めた。


「そうだね。説明すると長くなるけど、彼女は地獄から颯太を追って来たヨミちゃんで間違いないよ」


「そうだったのかぁ!」


 今度はゲンザブロウが俺のセリフを奪う。おっさん達わざとやってない?


『グググ……黄泉醜女だと?』


 あっ、忘れてた。悪魔が苦しそうにうめく。もういいからさっさと死ねよ。


『颯太、バナナを掲げるのじゃ』


 ティラミスちゃんもといクララちゃんもといヨミちゃんもといヨモツシコメが俺の懐を指差す。ああ、ややこしいのじゃ!


 賢者に貰った金のバナナを掲げると、光が放たれた。


『グワアアア!!』


 わかったからとっとと死ねクソ悪魔。


 カルボネア王家を不幸にした悪魔は、バナナの光に照らされると溶けるように消えていった。そして同時にうつろだった国王の目に光が宿る。


「私は……何ということを」


 なんか後悔してるけどこの人悪いことしたっけ?


「陛下、まずは戻りましょう。民は皆貴方の安否を心配しております」


 ライアンが国王の前に立ち、片膝をつく。力無くうなずく彼を連れ出し、俺達は城の地下を後にした。


「お腹空いたね~」


 あれ? ティラミスちゃんに戻ってる。


「そういえば、黄泉醜女はとても食欲の旺盛な鬼神だそうだよ」(※タケノコ食べたりブドウ食べたりモモ食べたり)


 なるほどなー……考えてみたら正体が怖い姿でも普段は可愛い女の子だし、しかも俺を追ってわざわざ地獄からここまで来てくれたなんて最高じゃね?


「とりあえず寝ようぜぇ。もうクタクタだぁ」


 そうだな。色々とユウホウとかティラミスちゃんとかに聞きたいことがあるけど、まずはメシ食って寝よう、そうしよう。


「……ところでアイちゃんはどうして仲間になったんだい?」


 ユウホウも分からないらしい疑問をアイちゃんにぶつけている。占い婆の差し金だったのかね?


「え? 一人じゃ帰れないからだが」


……はい。ただの迷子でした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?