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トルトーネ王国編

新たな旅立ち

 次の日。国王が城に戻り、事件の詳細が国民に伝えられた。被害者の遺族達は酷く悲しんだが、頭を下げる国王を責めるようなことは無かった。彼も同じく被害者の遺族だからだ。


「これから大変だね。マリネラ王女がいなくなって後継ぎは幼いマリナード王女だけ。トルトーネとの関係も改善の兆しがないままだ」


 ユウホウは説明臭いセリフをライアンに向かって話した。


 ちなみに俺が昨日ユウホウとティラミスちゃんに聞いたのは、クララちゃんと別れる時にユウホウが渡した手紙の内容について。色々聞こうと思っていたけど、実際に顔を合わせたらそれ以外に聞くべきことは特に思いつかなかった。


 手紙の内容は『颯太を心配して来てくれたのですか? ありがとうございます』という簡単な内容だったけど、何故かティラミスちゃんは大切に持っていた。


 彼女からは「どの姿がいい?」と聞かれたので、「ヨモツシコメ以外でお願いします」とお願いしたら「じゃあこの姿で」と言われた。つい即答して怒られるかと思ったけどティラミスちゃんは平然としていた。天使かな?


「それなんだが、またお願いしたいことがある」


 俺が昨日のことを思い返していたら、ライアンが神妙な顔で話し出した。まあ城も大変だしな、手伝えることがあるなら何でもやってやろう。


◇◆◇


 そして、俺達六人・・はカルボナーラの出口に立っていた。もちろんここから旅立つためだ。


「アイちゃんは帰らなくていいの?」


「どうやって帰れというのだ!」


 力強く反論された。


「まあ、アイちゃんがいいなら一緒に行こう」


 これからビール村に送るのも面倒だし、美人なお姉さんが一緒にいて困ることはないだろう。


……はっ!?


 ティラミスちゃんがジト目で俺を見ている! いや、やましいことなんか……ちょっとだけしか!


「んふふ~、ソウタは女の子が大好きだもんね~」


 にじり寄ってきて上目遣いに俺を見るティラミスちゃんヤバいかわいい死ぬ。


「ではトルトーネに向けて出発するぞ!」


 仕切るハゲ。そう、俺達は暴君が治めるというトルトーネに潜入することになったのだ。


◇◆◇


「トルトーネに潜入?」


 ライアンの願いとは、トルトーネに潜入してカルボネアと同じような異変が起こっていないか探ることだった。


「今回の挙兵はあまりにもタイミングが出来過ぎている。裏で悪魔が糸を引いているのではないかという意見で城内が一致してな」


 確かにトルトーネは怪しい。思わずティラミスちゃんを見たが、彼女は首を傾げるだけだった。ネタバレはしてくれないみたいだ。


「でも、この大変な時期に正騎士が城を離れていいのかぁ?」


「心配はいらん。それにソウタが一人前の宮廷道化師になるまで守る約束だからな」


 そういえばそんな話だったっけ。


◇◆◇


「ところでソウタぁ、正体があんな怖い怪物でもいいのかぁ?」


 源三郎がこっそりと俺に耳打ちする。ふむ?


「物凄いブスのおばさんとかだったら微妙だけど、あれだけ人間離れしてると別に……正体がドラゴンのアイちゃんと大差ないだろ?」


 普段は可愛い女の子だし、性格も悪くないし。むしろ天使。


「……お前のそういうところ、尊敬するぜぇ」


 なんか尊敬されたけど小汚いおっさんに尊敬されても困る。


「気を付けていってくるのじゃぞ!」


 マリナードが見送りに来てくれた。姉があんなことになって大変だろう。


「マリナードも大変だろうけど、頑張れよ」


「ああ、恐ろしい姉上もいなくなったしな! これで妾の天下じゃ、ふはははは!」


……どうやら大丈夫そうだ。空元気というわけでもなく、完全に心の底から笑顔を見せている。


「そっとしておこう」


 ユウホウの提案に全員頷いて、俺達はカルボナーラの町を後にするのだった。

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