――話は少し前に遡る。
「これはまさに……由々しき事態ですわね」
とある王家の一室。入室した若い執事より一連の報告を聞いた人物は溜息を漏らす。
絢爛豪華な薔薇を身に纏ったかのようなドレス。窓から差し込む陽光が彼女の艶やかな
琥珀色の双眸は眼前のクリスタルテーブルに置かれた羊皮紙を注視しており、溜息をついた彼女は、執事の淹れた薔薇の花弁が浮いた紅茶を一口含み、一旦心を落ち着かせた。
誰が見ても美しいのひと言では言い表せない程の美貌と気品さを兼ね備えたこの人物こそ、ここマーガレット王国の現王妃、第七代アレクサンディア女王。
横に執事を控えさせた状態で、女王はクリスタルテーブルに置かれた羊皮紙を一枚手に取ると、書かれた文字をゆっくりとしなやかなミルク色の指でなぞっていく。そして、この
そこに書かれていた内容とは――
『アルバス侯爵嫡男トロイ 東地区の舞踏会にてレイス侯爵令嬢相手に婚約破棄 のちに真実の愛を見つけてアリーマン伯爵家次女アリアと逃避行』
『ドヴォル公爵次男ザーク 王立セントレア学園 学園祭祝賀パーティにてグレーテル公爵令嬢相手に婚約破棄 ヘンゼル伯爵令嬢と婚約宣言』
『隣国アルバトロス王国 ウイング第二王子、誕生日パーティにてヒュウコ公爵令嬢相手に婚約破棄 ミサキ伯爵令嬢と真実を求める旅へ』
「……本当になんなんですの、これは」
女王が再び息を吐き、薔薇の甘い香りが部屋を満たしていく。
いつからこうなってしまったのか? 時は婚約破棄戦国時代。自国でも、異国でも、遥か遠くの地でさえも。
右を見ると婚約破棄、振り返っても婚約破棄――
一に追放、二に断罪、三・四と五つは真実の愛。
そこに付随して起きる悪役令嬢と呼ばれる令嬢の断罪、断罪、巻き起こる断罪三唱の嵐。
今年、貴族社会で流行した言葉を集めるコンテストがあったのならば、受賞するワードは婚約破棄か断罪か、悪役令嬢か、はたまた真実の愛か。
そもそも真実の愛とは何なのか? 婚約している相手が居ながら不貞行為をするなんて貴族としてあるまじき行為なのではないか? とアレクサンディア女王は嘆くのだ。
「スミス、うちの息子達は大丈夫ですわよね?」
「ええ。今のところは」
「今のところはですって!?」
手に持っていた羊皮紙をグシャリと握り潰す女王。失礼しましたと言わんばかりにすぐさまスミスが一礼し、再度落ち着きを取り戻す女王。女王には、第一王子から第三王子、そして第一王女、第二王女と五人の子供が存在しているのだ。
このまま婚約破棄をする事が貴族の勲章であるという意味の分からない慣習が出来てしまっては、王家にまでこの婚約破棄と令嬢断罪のビックウェーブに呑まれてしまう可能性があるのだ。女王は決意する。国として、国家の転覆だけは阻止せねばなるまい、と。
「……あの子を連れて来て頂戴」
「畏まりました」
スミスが恭しく一礼し、女王の一室を後にする。やがて、入れ替わるようにして一人の女性が部屋をノックする。恐らく女王に呼ばれる事を想定して既に外で待機していたようだった。
星空を投影するかのような美しい銀髪に赤い薔薇のドレスを身に纏う女王に対し、カーテシーをした女性は短い黒髪と白い
「ニケ・グラジオラス。あなたを王家直轄の断罪回避請負人の任を命じます」
「謹んで御受け致します。ニケ・グラジオラス、女王のご意向に応えてみせましょう」
女王の影として。表舞台に潜む王国の闇を暴くため。
星空を吸い込んだ乙女は、その姿を変え、煌びやかな舞台へと自ら潜入する事になる。ニケとは一体何者なのか? それが語られるはもう少し後の話。
こうして国家転覆を防ぐべく、断罪回避令嬢ニケ・グラジオラスがここに誕生したのである――
◆◆CM◆◆
<1本目>
ご令嬢「コンノ、真実の愛って どこにあるのかしら?」コンノ「此処にございます!」
BGM ♪愛が一番♪ 貴族社会~♪
〝断罪回避令嬢ニケ〟好評連載中です!
<2本目>
まめねこ~
「ねぇ、知ってる? 最近社交界とかで断罪される淑女のこと、あくやくれいじょうって言うんだって~」
ねこはいつもみてるよ♪
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◆◆CMおわり◆◆