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第3話 動き出す断罪回避令嬢


「次断罪が起きるとすれば、今度プリーシア公爵家で開かれる社交界会場ね」

「お嬢様、今回はどうされますか?」


 王家直属執事のスミスがお嬢様と呼んだニケの前へ紅茶を置く。幼い頃よりニケの教育係を命ぜられていたスミスは、女王だけでなく、ニケ専属の執事でもあるのだ。ニケは机上に広げた大量の悪役令嬢捜査資料・・・・の中から、次に起こりうる断罪案件を探していた。そして、一人の男性をピックアップする。


 プリーシア公爵家嫡男、名をクローバー・プリーシア。プリーシア公爵家とは、先日王立セントレア学園・学園祭祝賀パーティにて次男が盛大に婚約破棄を行ったドヴォル公爵家と仲がよく、家族ぐるみの付き合いなのだ。セントレア学園三年生の悪役令嬢として名高いラミア・ルージュ・ムーンライト公爵令嬢。次断罪されるなら彼女程の有力株はないと言えるのだ。


 期限は一週間。一週間でクローバー・プリーシアの交友関係からクローバーのヒロインとなるべく存在を炙り出し、ラミアサイドより、彼女を救う最善の手段を探し出す。これが、断罪回避令嬢としての仕事となるのだ。


「そうと決まれば、まずはラミアと接触しましょう。スミスはクローバーの交友関係を徹底的に炙り出して。それから……不貞行為の証拠もね?」

「承知致しました」


「さて、華麗なる断罪回避、やりましょうか?」



 次の日より、ニケは王宮セントレア学園へと潜入する。中高一貫校であるセントレア学園は敷地も広く、また他の学校からの交換留学生を招く制度もあり、学食やカフェテラスなどの共用スペースや、クラス関係なく受ける事の出来る選択授業の教室など、見た事のない・・・・・・生徒が紛れていても気にならない場所が多く存在する。


 初日はなるべく目立たない地味な格好で。学園の制服を身に纏い、噂話が大好きな生徒を中心に聞き込みをする。


★生徒Aの証言★

『クローバー様もラミア様も素敵な御方ですわ。もうクローバー様からの視線を浴びるだけでわたくしは……はぁーん♡』

「最近黄色い視線を浴びてあなたのようにクローバー様と噂になってる子とか居ない?」

『聞いたことありませんわ』

「ありがとうございます」


★生徒Bの証言★

『ええ、御二人は学園でもお似合いのカップルですわよ』

「それならばラミア様って、どうして悪役令嬢なんて噂が立っているのかしら?」

『それはもうあれだけ気高くて凛々しい御方ですもの。嫉妬ですよ、嫉妬』

「それは興味深い話ね」

『あ、私は用事を思い出したのでこれで……』


★生徒Cの証言★

『うち……聞いちゃったんです……』

「え、何を見たの!」

『先日クローバー様がチャイコ様と何やらヒソヒソ話しているのを!』

「えっと、チャイコ様って……あ、ドヴォル公爵家嫡男のチャイコ様?」

『そうです。何やら来週行われるプリーシア公爵家主催の社交界での催し物の打ち合わせとかで。うち、カフェテラスでたまたま後ろの席に座ってまして……あ、ここだけの話でふよ?』

「それ、詳しく聞かせてくださる?」


 有力情報を一つ聞いたニケ。ドヴォル公爵家嫡男チャイコ。ニケが女王様からいただいた事前調査資料によると、先日ラミアとお近づきになろうとして盛大に振られた事実が残っていた。


 ドヴォル公爵家と言えば、あの婚約破棄ラッシュの記事の中に、次男ザークが四大貴族が一つ、グレーテル公爵家のご令嬢との婚約を破棄したという内容が記載されていた。


 弟が婚約破棄したなら、兄も婚約破棄に寛容な可能性が高い。クローバー・プリーシアが何か企てている可能性を否定出来なかった。


 ある程度聞き込みを終えたところで、初日はラミアとは接触せずにニケは任務より帰還する。ニケが自室の部屋へ戻ると、王家直轄執事のスミスが彼女が座る椅子の前、クリスタルテーブルへ紅茶とクッキーを並べていった。


「爽やかな味がするわね」

「もうすぐ暑くなって参ります故、クッキーへレモンを少々加えておきました」

「美味しいわね。女王印のロイヤル紅茶とも合うわ」


 気分を落ち着かせたところで、互いに業務報告をするニケとスミス。


 スミスはマーガレット王国の執事侍女協会のネットワークを通じ、色々と情報を仕入れて来ていた。そして、その中で、クローバーのプリーシア公爵家でも、ラミアのムーンライト公爵家でもなく、ネヴィウス伯爵家という小さな伯爵家の専属侍女が重要な場面を目撃したという情報を得ていた。


「ネヴィウス伯爵家……あまり聞かない名前ね。えっと……嗚呼、ラミアと同級生の娘が居るようね」


 学園生徒の名簿を取り出したニケはラミアの同級生メルバ・ネヴィウス伯爵令嬢の名前を確認する。成程、純粋そうな真ん丸の琥珀色の瞳と柔らかそうな桃色の髪が特徴の可愛らしい子だ。


 ニケは直感で思う。 

 ――この子、調べてみる必要がありそうね?

 と。


「スミス、ではネヴィウス伯爵家のその侍女と接触を図って。私は秘密裏にラミアと逢ってくるわ」


 断罪回避へ向け、少しずつ動き出したニケ。果たして社交界を無事に終えることが出来るのか?


◆◆CM◆◆


『いえ〜〜い 君を守れてよかった! このままずっと〜〜ずっと〜〜死なずにハッピー〜♪

 断罪〜〜♪ 君に会えてよかった〜〜♪このまま奴を〜蹴落として〜〜断罪回避〜♪


ダンザイ 〜回避でよかった

  ネオミュージックで好評配信中〜』

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