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第8話 閾

夜が、また来た。

けれど今日の夜は、今までと違う。


ウジャは、じいちゃんの形見の一通の手紙を開いた。

「本当に困った時にこれを開け」

そう言って渡された封書。破かれる紙の音が、今宵の狼煙となった。


納屋の奥に、今まで使ったことのない武器がある。

じいちゃんが作ったんじゃ。

それを使え。


「……じいちゃん!!ありがとう!!」


納屋の扉を開けると、湿った土と木の匂い、長く閉ざされた空間の静寂が溶けていく。

その奥に眠っていたのは——


「……じいちゃん、これは……反則じゃねぇか?」


それは、まるで神話の遺物だった。

連動式百連弩。

現代で言えば、レールガンにも似た圧倒的連射武器。


一発放つと百発の弾丸。

次の発射は、引き金の振動で上から落ちてくる石が再装填。

**物理法則と狂気が手を取り合ったような“連射地獄製造機”**だった。

扱うには、尋常ではない膂力と覚悟が要る。


納屋の前に、石弾を大量に並べてウジャは構える。

今日は違う。迎え撃つ。倒す。生きる。



その頃、長老屋敷では酒盛りの真っ只中だった。


「あの汚ねぇ糞餓鬼がよぅ、なにがイヌガミじゃ!!」

「いたらブチ殺しますぅよぉぉぉぉぉ!!!」

「がははははは!!!かかってこいやぁぁぁ!!!」


——


ドンッッッヅゴーーーーーーーーンンンン!!!!


「……え?」


どドドドドドドどどど!!!!!!

弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩弩!!!!!


——イヌガミ、現る。その数、数千。



連弩を握るウジャの目は、もう人のそれではなかった。

皮膚の薄い腹部、そこだけを狙う。

狩猟の記憶と、祖父母の言葉と、生への執念が一つに融合する。


連弩連弩連弩連弩連弩連弩連弩連弩!!!!!


敵の咆哮。肉の裂ける音。飛び散る血。

矢を外した個体が跳びかかってくる。


弓を引く指も限界が来る!!

第一関節が千切れる!!

それでも、弾け!!!ウジャ!!!!

イヌガミの爪攻撃が、波状で襲う!!!

堪えろ!!!今は堪えろ!!!


ウジャ!!!!弾け!!!!

連弩連弩連弩連弩連弩連弩連弩連弩!!!!!


鉈。腹を割け。躊躇うな。ウジャ!!!


連弩連弩連弩連弩連弩!!!!!!


指が、関節が、裂ける。

けれど、弾け!!「指より命だ」


まだ来る。まだ殺す。まだ弾け!!!!


視界が、滲む。


「……見えん……でも、弾け……」


あ、あぁ、朝が……朝が来るぞ!!!!

ウジャ!!!!朝が来るぞ!!!!!

もうすぐだ!!!!


——そして、朝が来る。


残りのイヌガミたちは、朝日を嫌うように一斉に退く。


空は、晴れていた。

太陽が昇る。

それは勝利の証であり、また絶望の始まりでもあった。

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