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最終話 閻魔符

山の下の村人たち──長老以下、皆で山を登る。

「騒動の理由を知る為に」──初めて、恐る恐る、山の上へ。


緑と霧が絡む山道は、ただ静かに彼らを受け入れていた。


そして辿り着いた先に──


数千のイヌガミの死骸が地を埋め尽くしていた。

血まみれのその光景は、あまりにも重く、理解を拒むほどに不穏。


そこに倒れていたのは、息のないウジャ──

荒れ果てた衣服に血痕を残しながら、まるで眠るように静かだった。


村人たちは、言葉を失った。


その時、ひとり旅を続ける僧侶が静かに現れ、筆を取り出す。

彼は情景を見渡し、紙に、筆に、そのまま書き記した。


綺麗事など

佛の御霊

この有り様を

ご覧あれ


紙を掲げ、風に翻し、この地に放つ。

文字は風に乗り、山の稜線をまたぎ、無言の祈りとなった。


続けて、彼はもう一枚取り出す。


桜花咲く

生きたる者を

導きたるは

天か地か


その紙を、そっと、ウジャの身体に置いた。


そして……色の違う紙を一枚取り出す。


おのがいのちを

しまえそうろう

わがみこいしく

われをだく


そう書いて、長老に投げ付ける。

閻魔符だ。


僧侶は、ウジャを優しく抱えて

ウジャの家に行く。


お帰り、ウジャ……


おぉ、連弩はどうじゃったか?


ウジャの好きな里芋もあるけぇね。


ウジャ!!お前、格好良くなったな!!


僧侶は、家族の声を聞く。


僧侶は、そっと、ウジャを寝かす。

経を唱える。


静かに、僧侶は、言葉を送る。


家族が、揃いましたね。

そして、ゆっくり休んで下さい。


経を終えた僧侶は、

ゆっくりと火を起こして、


その火は、

家を天承させてくれました。


ウジャは、ふんわりと、

空に向かって行きました。


お父さん、お母さん、

おじいちゃん、おばあちゃん、

みんな、待っていてくれていました。


ウジャ!!お帰り!!


ウジャは、思わず笑顔になりました。


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