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第2話 悪役令嬢は思い出にため息をつく


 ――あれは私が八歳の頃。


 私の母ミニーアン・バルヴェニが馬車の事故により帰らぬ人となりました。母を喪った悲しみに暮れ、私は日がな一日ボーッとする毎日。


 母の葬儀が終わってから一年後、そんな私を見かねた父はコニー様――いまのお義母かあ様との再婚を決意されたのです。


 コニー様もちょうど連れ合いを亡くし独り身となっておりました。ですので、コニー様自身もバルヴェニ家へ嫁ぐのに否はなかったようです。


「私はコニーよ。これからあなたの母となるの。よろしくね」


 私を見て優しく微笑む可愛らしい女性――コニー様が私のお義母かあ様となりました。


「ほら、恥ずかしがってないで挨拶なさい」


 見ればお義母様のスカートの後ろに隠れて、亜麻色の髪のとても愛らしい女の子が私を恐る恐る顔を出していました。


「娘のメアリエーラよ。あなたの義妹いもうとになるの。仲良くしてあげてね」


 お義母様に背中を押されて前に出てきた女の子。

 それが私の一つ歳下のメアリエーラ――メアリです。


「あ、あの……お義姉ねえ様とお呼びしてもよろしいですか?」

「ええ、かまわないわ」


 銀髪、碧眼の冷たい印象の私とは違い、亜麻色の髪とくりっとした翠の瞳を持つとても愛らしい娘――メアリが上目づかいでおずおずと私の前に出てきた時の事は今でも忘れません。


「それでは私もメアリって呼んで良いかしら?」

「もちろんですわ、お義姉様」


 新しい家族が、特に可愛い妹ができて私も嬉しくなり、こうして私のふさぎ込んでいた気持ちも晴れたのです。


 だから、最初の頃はお義母様ともメアリとも上手くやっていたと思います。


 ですが、それはすぐに幻想であったと思い知らされました。


「お義母様、そのネックレスをお返しください!」


 しばらくして、大切に保管していた亡き母の形見であるエメラルドのネックレスをお義母様に取り上げられてしまったのです。


「これは公爵夫人であったミニーアン様のもの。ですから、フェリアが成人するまで現公爵夫人である私が預かります」

「そ、そんな……あんまりです」


 まだ幼い子供の私には抵抗する術もなく、それからもお義母様にお母様の遺品を奪われ続けました。


 しかも、可愛がっていたはずのメアリまでも……


 お義母様たちがやってきてから三年が過ぎ、私も十二歳となりました。


 この歳になると、まだ夜会には早いですが他家よりお茶会に誘われることも増えてきました。


 その日も友人からお茶会へ招かれ出かけようとしたのですが――


「ねぇ、カリラ。外行き用に薄い青色のドレスがあったはずだけど?」


 ――着ていこうと思っていたドレスが見当たらず、専属侍女のカリラに尋ねました。


「あれはメアリエーラ様へ差し上げたのではなかったのですか?」

「はぁ?」

「先日、メアリエーラ様が身につけ外出されていたのを見かけましたが……」

「何ですって!?」


 この日は別のドレスで事なきをえましたが、これ以降も義妹は私の服を欲しがって次々と衣類が無くなっていきました。


「そのペンダントについているサファイア……お義姉ねえ様の青い瞳のようでステキ!」


 味を占めた義妹メアリのクレクレはしだいにエスカレートしていきました。


「それ私にください!」


 そしてついに範囲が服飾品にまで及んだのです。


「お父様、 お義母様とメアリをなんとかしてください!」


 堪えかねた私はお父様に直訴を試みもしました。


「フェリアには新しい服や宝石を買ってやるから我慢してくれ」


 ところが、まったく取り合ってもらえません。


「いったいどうしたら……はぁ」


 どうする事もできない無力感に私はため息をつくのが癖になってしまったのでした。


 こうして、バルヴェニ公爵家はお義母様とメアリに乗っ取られました。


 その後も私の身の回りの品はお義母様とメアリに奪われ続け、その度にお父様から新しいものを買ってもらう構図が出来上がったのです。


 メアリは私のお古を着ているわけですから、一面を見ればグレーン殿下のおっしゃった内容は間違ってはいません。


 しかし、被害者と加害者は真逆なのです。


 はぁ……


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