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第3話 悪役令嬢は真打ち登場にため息をつく


「おい、聞いているのかフェリア!」

「……」


 メアリとの出会いを回想していたら、殿下が無視をされていると思ったようで怒声を上げてきました。


 婚約破棄しようと言ってきた男性に愛称を呼ばれるとイラッとしますね。


「キサマはいつもそうだ。ちょっとデキが良いからと……私を馬鹿にしているんだろ!」

「そんな殿下、けっしてそのような事は……」


 ありまくりですが。


「いま俺をバカだと思っただろ。 思ったよな?  ぜったい思ったよな?」

「いえいえ、まさかまさか」


 ちっ、こんな時ばかり勘のいい人です。


「だいたい、私は最初からこの婚約は嫌だったんだ。キサマはちょっと顔が良いからってお高くとまりやがって……」


 できれば私だって殿下みたいな暗愚は嫌でしたよ。


「澄ました顔で平気で人を傷つける……」


 人前で誹謗中傷をぶちまける殿下には言われたくありません。


「そんなにも性格が悪いから婚約を三回も破棄されたるんだ」


 その婚約破棄は私に咎はありません!


 そう叫びたい。


 くっ! しかし、ここは我慢です。


 頭の中がピンク色のフラワー殿下……じゃないグレーン殿下に不満は尽きませんが、私の婚活もあやうい状況にあるのです。


 現状を打破するにはどうすればよいか。私の出した結論は、他家へ嫁いで家を出ればいいというものでした。


 幸いお義母様が懐妊し、一昨年やっと私の念願であった後継おとうとが誕生したので後顧の憂いは晴れています。


 そこで私は家から早く出ようと結婚に賭けました。ところが、メアリのクレクレの魔の手は私の婚約者にまで及んだのです。


 そうなのです……殿下の言うように私はこれまで三回も婚約したのですが、それら全てメアリに婚約者を奪われました。


 三度も婚約破棄されたその顛末は社交界ではもう噂になっており、おかげで私の婚約者探しは難航しております。


 グレーン殿下との婚約は国王陛下がくださった最後のチャンス。私の婚活は崖っぷちなのです。


「キサマは婚約者を蔑ろにし、そのくせ嫉妬深く強欲な女だ」


 ですが、グレーン殿下の暴走は止まらず一方的に悪く言われて私はイライラMAXです。


「だから私はフェリアメーラ・バルヴェニとの婚約を破棄する。そして、新たにメアリエーラ・バルヴェニを我が婚約者とするのだ!」


 そして、再びビシッと私を指差すグレーン様……だから、無闇に人を指差さない。


「殿下のお気持ちは理解いたしました」


 やっと私のターンです。


「おお、分かってくれたか」


 何をそんなに喜んでいるんですか。私が素直に従うとでも思っているとはどこまでもおめでたい方です。


「まあ、私への誹謗中傷に関しては色々と思うところがありますが、とにかく殿下が私と結婚したくないのだとは伝わりました」

「ならば、この婚約は……」


 バッと手のひらを殿下に向けて不敬を承知で殿下のたわごとを遮りました。もうこれ以上この方に口を開かせると話が進みません。


「ですが、私どもの婚約は王家と公爵家が取り交わした家同士の契約なれば、殿下や私の一存でどうにかできるものではございません」

「そ、それは……」


 殿下の目が盛大に泳ぎ始めました。


「この話はきちんと国王陛下に通しておいでなのでしょうか?」


 しているわけありませんよねー。このバカ殿下がそんな根回しを思いつくはずもありませんよねー。


 挙動不審の殿下に、私は勝利を確信しました。


 ところが……


「それなら問題ないですわ」

「メアリ!?」


 私と殿下の会話に割り込んできたのはくだんのメアリエーラでした。


 明るい亜麻色の髪、キラキラしたみどりの瞳、満面の笑顔で登場してきた我が義妹――くっ、あいかわず悔しいくらい可愛いですね。


「陛下もこの婚約破棄を受諾なさいましたわ」

「まことか!?」「そんな!?」


 グレーン殿下は喜色をあらわにし、私は一気に青ざめました。


「そうですわよね陛下?」

「うむ……」


 いつの間にか国王陛下までご来訪されており、メアリの問いかけに苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ頷かれました。


「もう諦めたらいかがですかお義姉ねえ様?」

「そ、そんなぁ」


 私は絶望感に打ちひしがれ、ガクリと地に膝をつきました。


 メアリに先手を打たれていたなんて……はぁ……


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