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第4話 悪役令嬢は変態妹にため息をつく


「うわぁはっはっはっ!」


 グレーン殿下がバカだけにバカ笑いしやがっております。


「思い知ったかフェリア。悪は滅びるが宿命さだめ!」


 いや、これ全部メアリの手回しであって、あんたはなんもしとらんでしょうが。


「これで私たちの仲を阻む者は何もなくなったな」


 喜色を浮かべてメアリの前で膝をつくグレーン殿下……何がそんなに嬉しいのやら。殿下に待ち受けているのは地獄だというのに。


「さあメアリ、私の愛を受け入れてくれ」


 右手を差し出す殿下でしたが――


「えーイヤですわ」


 ――メアリはあっさりお断りごめんなさい


「どうして私が殿下みたいな浮気者の告白を受けないといけないんですの?」


 ばっさり切り捨てました……あ〜あ、やっぱり。


 殿下、完全フリーズ状態ですね。手を取ってくれると信じて疑わなかったのですね。


 言わんこっちゃない。


「殿下は何もわかっておられないのです」

「なんだとっ!?」


 ホント呆れてため息が漏れてしまいます。


「私が婚約破棄されたのは今回で四回目なのですよ」

「それがどうした」

「その全てはメアリに婚約者を奪われた結果なのです」

「ふん、ざまぁないな」


 イラッ! このアカンタレがぁ!!


 いけません……淑女にあるまじき雑言を口にするところでした。


「考えてみてください。どうして私が三回も婚約者が奪われたのかを」


 私はこめかみをピクピク痙攣させながら忍耐強くバカにも理解してもらえるよう説明を続けました。


「簡単なことだ。メアリはとても愛らしく、お前にまったく可愛げがないからだろ?」


 こいつ殺したろか!


 スゥハァ、スゥハァ……

 オッケー、オッケー、大丈夫よ。

 私は落ち着いているわ。


「もっとよくお考えてください……一回目の婚約者がメアリに奪われたんですよ。二回目の婚約者が奪われた時、一回目の元婚約者はどうなったと思うのです?」

「あっ……」


 サッと青くなるグレーン殿下。

 やっと思い至りましたか。


「三回目の婚約破棄の時に二回目の元婚約者はいずこに?」

「そ、それは……」

「そして、今こうしている時に三回目の元婚約者はどうしているのでしょう?」

「た、確かお前の婚約者たちは……」


 はい、全員漏れなく廃嫡&平民コースまっしぐらです。


「言っておきますが、メアリはこれまで一度も婚約をした経験はございません」

「なんだと!?」

「つまり、全員いまの殿下と同じ目にあっているのです」

「ど、ど、ど、どういう事だぁ!!?」


 叫びながらグレーン殿下が唾を飛ばして詰め寄ってくるのですが……汚いですね。


 せっかく顔はいいのに。


「私を無情に捨てた婚約者みなさまは廃嫡されて義妹メアリの手でギャフンされているのです」

「なんだってぇぇぇ!?」

「ちなみにテネシーさんを修道院送りにしたのもメアリの策略です」

「なぜだ……なぜそんなマネを?」


 笑撃じゃない……衝撃的な事実に真っ青のグレーン殿下。

 泣きそうな顔で今度はメアリに詰め寄られております。


 やれやれ、やっと離れてくれましたか。


「き、君は悪辣な義姉あねにいじめられていたんじゃないのか?」

「お義姉ねえ様からいじめなんて全くこれっぽっちも受けておりませんわ」

「だ、だが君はドレスや装飾品を買ってもらえないと……」

「ええ、嘘は申しておりませんわ」


 殿下の悲痛な顔にも悪びれた様子を微塵も見せずメアリはしれっとしてます。


「事実、いま着ているこのドレスもお義姉様のものです」

「それではやはりキサマはメアリに自分のお古を押し付けていたんではないか」


 やっぱりそうではないかと今度は私に詰め寄ってこられましたが……忙しい人ですね。


 あれを見ても同じことが言えるのでしょうか?


 冷ややかな目を殿下に向けて私はメアリを指差しました。正直あまり他人様にお見せしたくないのですが。


「ああ、お義姉様の匂いが、クンカクンカ、スーハースーハー……まるでお義姉様に包まれているみたいですわ」


 元私のドレスの匂いを嗅いで恍惚のヤバイ表情を浮かべる義妹へんたい


「メアリは重度のシスコンなんです。私が大好き過ぎて新しい服はいらないからと私の服を全て持っていってしまうのです」

「そ、そんなバカな!?」

「この子は服でも下着でも一回は私が袖を通したものでないと嫌がるんですよ」


 身内のこんな変態性癖を暴露したくなくて、ずっと隠してきたのに。


「一回なんてそんな!……最低でも一週間は身につけていただきたいですわ!!」


 まさに真正のド変態。


「そ、それでは装飾品や教科書の件は……」

「お義姉様コレクションですわ」


 そう、私が使ったものはなんでも欲しがる収集癖がメアリのクレクレの正体。危うく私の専属侍女のカリラまで持っていかれるところでした。


 さすがのカリラもこんな変態妹の侍女は嫌だときっぱり突っぱねていましたけど。


 こんな困ったメアリの変態性癖ですが、これも血のなせるわざ。これも全てお義母様譲りなのです。


 実を申しますと私の亡きお母様は現国王の妹で、温和な性格と絶世の美貌で国内外に多くのファンを持つ王女様アイドルでした。


 そして、今のお義母様は私のお母様ミニーアンの熱狂的大ファン。お母様の物は何でも収集しているのです。


 だから、お母様の遺品を全て取り上げたのです。

 幼い私がそれらを破損させないようにするため。


 敷地内の一画には特注の別棟が建造され、それはそれは大切に保管されております。


 本邸よりも厳重な鉄壁の守りを誇るその建物の名は『ミニーアン様宝物庫ミュージアム』。


 まあ、鉄壁と言っても家族なら誰でも入場可能なんですけど。


 別に料金も取られたりしません。

 だから私もフツーに入れますよ。


 まあ、入りませんけどね。


 え? 母親の形見を見に行かないのかって?


 冗談を言わないでください恐ろしい。

 入場したら見るだけではすみません。


 なんせ私はお母様に生き写しなのです。


 そのせいで、お義母様の今のトレンドは私に若かりし頃のお母様の格好をさせることなのです。


 捕まったら最後、私は延々と着せ替え人形に……昨日もお義母様は遺品を着せた私を見ながら恍惚の表情を浮かべておりました。


 なお、私に拒否権はありません。


「……と言うわけで、私は家で義妹から身ぐるみを剥がされているのです」


 マジで盗賊ではなく義妹から毎日のように裸にひん剥かれております。


「ちなみに最近ではお義母様まで追い剥ぎになっておりまして、私のクローゼットは寝間着といま着ているこの一着だけです」


 なんでしょう?


 家の中の方が危険な気がしてきました。


「公爵令嬢のドレスが一着って……」

「まあ、明日には新しいドレスが数十着届きますが」


 お義母様とメアリが数日をかけて私を着せ替え人形にして選定したのです。


 なお、私に決定権はありません。


 なんで私ばっかりこんな目に合うのでしょう。


 はぁ……


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