「幽霊の正体見たり、枯れ尾花ってな」
オガショウがユーレイの正体を見つけると言い始めた。俺としてもあれが本当に幽霊だったのか気になるのだ。当然、俺も「幽霊捜査」に参加することにした。
「まずは近所で聞き込みだ」
まあ、向かいのマンションでユーレイを見たし、近所の人も見たことがあるかもしれない。
「お、第一近所民発見だ」
「なんだよ『第一近所民』って……」
オガショウが見つけたのはこのアパートの大家さんだ。50代くらいのおばさん。
「あ、大家さん。おはようございます」
「あら、おはようございます。西戸崎さん」
俺は簡単に挨拶をしたらそれとなくユーレイについて話を聞いた。
「あの……大家さん。最近この辺で変わったことないですか?」
「あるわ! あるわよ! 最近、ゴミがなくなるの」
なんだ、そりゃ。ゴミなんてなくなるならそっちのほうがいいに決まってる。
「ゴミ捨て場のね、ゴミよ!」
幽霊関係ないっ! 現実とはこんなもの。俺が聞きたいこととは全く違う返事だった。
「ほら、ゴミの日って月曜日と木曜日じゃない? それ以外の日にもゴミを出す人は多いんだけど……」
「大家さん、ちょっとすいません」
俺は大家さんの話を遮ってユーレイについて聞くことにした。
「なに?」
「向かいのマンションなんですけど、あの外廊下に人が立ってたことがあって……」
「なにそれ、こわっ!」
オガショウと同じ反応! まぁ、普通そうなるよなぁ。俺なんか気を失ったし……。
どちらにしても、大家さんはユーレイを見ていないようだ。
「あの、すいません」
ここでオガショウが会話に割り込んだ。
「え? はい、なにか?」
「すいません、俺は西戸崎の友人です。ちょっと1個だけ質問いいですか?」
「はい」
オガショウが割って入って質問しても、大家さんは特に変に感じていないようだった。なにかって感じ。
「このアパート、近々建て替えの計画とかありませんか?」
「そうねぇ、もうだいぶ古くなってきてるけど、立地がいいのかまだまだ入居者さんが多いから建て替えはもう少し先になりそうねぇ。ごめんなさいね」
「あ、いえ」
この質問にどんな意味があったのか。それは、大家さんが作業に戻ったあとに俺にだけ聞こえるように教えてくれた。
「あの質問の意図はなんだったんだ?」
「まず、あの大家さんは幽霊を見ていないようだ」
たしかに、オガショウの言う通りだ。
「そこでアパート建て替えがないか聞いた。建て替えによる引っ越しを住人に告知するときは引越し費用は大家が負担するそうだ」
「なるほど」
あのアパートには8世帯が入れる。現在空きは1部屋。うちのお隣くらいだ。それも過去の経験からすぐに埋まるのではないだろうか。なにしろ大学まで徒歩1分という好立地。うちの学生が入居するのだ。
「7世帯分の引越し費用となると割と大きな金額になる。大家が幽霊騒ぎを起こして住人を退去させることを目論んだかもしれない」
「なるほど」
ここでオガショウは手のひらをひらりと動かして続けた。
「ところか、建て替えの予定はない、と。あれが本当なら彼女が幽霊を演じる理由はない。しかも、話した理由も説得力があった」
「なるほど」
俺、さっきから「なるほど」しか言ってないな。
「次の近隣住民に聞き込みをしてみよう」
「分かった」
俺達はこの調子で他の近所に住む住人に話を聞いて行った。サークルの先輩、後輩、クラスメイト。誰一人、幽霊を見た人間はいなかった。
そして、この辺から俺に「異変」が起き始めた。その1つが突然のモテ期の到来である。