「妹崎ちゃんに次どんな顔して会えばいいんだよ……」
「まだ会う気かよ!」
オガショウの言う通りだ。もう会ってくれないだろうなぁ。LINEもブロックかも。計画していたとはいえ「俺のこと好きなんだろ」みたいのも言った。
……もう死にたい。もう死にたいんだけど。一刻も早く家に帰って死にたいんだけど!
「この世で2番目くらいにはかわいかったのに……。彼女なら大学も同じだから、俺が家にいない時間とかも時間割で把握できると思ったんだ」
「まあ、あの子は後輩だし、学年違うから上級生の時間割を知るのはよっぽど調べないと難しいだろうな」
だよなぁ……。もう帰りたい。そして、静かに死にたい。夜中に今のことを思い出して布団の中で足をバタバタさせるのかと思ったら、早く意識がなくなるように酒を飲みたい。浴びるほど飲みたい……。
寝落ちするようにして意識を失って眠りたい。布団に入った瞬間に今日のことを思い出す。たった今、塗り固めた新しい黒歴史がフレッシュな状態で蘇ってしまう。
「なあ、西戸崎」
「なに? 早く帰って死にたいんだけど……」
俺涙目。比喩的な表現じゃなくてリアルに。
「あんな『幽霊候補』がまだ他にもいるんだろう?」
「……なぜ分かった?」
「さっきの妹キャラについては『2番目にかわいかった』と言ったよな? じゃあ、1番は? そいつが大本命だよな?」
うーん、実は「ユーレイ候補」は複数思い当たったんだ。状況的に、妹崎ねねかと思っていたのだ。ご飯は何度もごちそうしたし、こんなときくらい恩返ししてくれるかなぁって……。
よく考えたら、俺が寝込んだことなんて彼女が知るはずもない。
「これに書け」
オガショウがテーブルに1枚の紙を出した。「ユーレイ候補」について書けってことだろう。
―――
【本命】中西 洋子(なかにし ようこ)
バイト先の同僚
休憩時間とかよく被る。妹崎ねねがバイト先に来たら不機嫌になっていた。ヤキモチ?
【対抗】院瀬見 璃々羽(いせみ るりは)
大学の先輩
黒髪ロング、長身、胸がでかい。
【大穴】都城 とあ
幼馴染。むかし隣に住んでいた。
―――
「まだ3人も隠してたのか。とんだリア充だな」
「いや、そうじゃないんだ。妹崎ねねはあくまでも本命だった。彼女がユーレイじゃないって分かったから」
いわば、「繰上げユーレイ候補」ってとこだろうか。そんな言葉が存在するのかどうか疑問ではあるが……。
「どうすんだ?」
オガショウの言葉と態度から、もう既に少し面倒になっているのが伝わってきていた。専門的に言うと「飽きてきていた」。
「ユーレイを特定したい」
「彼女を作りたい的な理由で?」
ちょっとくらい眠たくなってもオガショウの考察は鋭い。しかし、俺は俳優ばりの演技力でやつを騙す。
「も、もちろん! お、お礼がしたいだけだよ?」
「うそつけ」
はぁ、とひとつため息をついてオガショウが訊いた。
「これからすぐ動くか?」
俺がユーレイの特定を続けるって確信があるのだろう。やつは俺の性格はよく知ってる。気になったら、確定させないと気がすまないんだ。
「これからすぐ動く」
「相変わらず頑固だなぁ……」
「でも、今みたいにやわらかい心をナイフでえぐるみたいな方法じゃなくて、もっとソフトでさりげない方法がいい……」
「分かった分かった。だから泣くな」
いつの間にか目から汁が……。だって、妹崎ねねちゃんかわいかったんだもん……。実際にフラレると心に来るなぁ……。
そして、ユーレイが俺の気のせいではないということを証明する事象が2つも起きたのは、オガショウとファミレスで会ってからそんなに日にちは経っていない頃だった。