「その容疑者②がお前のことを好きかもしれないってことは理解したから。でも、なんでお前はそんなに冷静なんだよ」
「それが、その中西さんはユーレイじゃないことが分かったんだ」
「ほほう。どういうことだ?」
オガショウは興味を示したみたいだった。
「これだ」
俺は自分が食べている食事を示した。
「夕飯?」
「そう、この夕飯が証拠だ」
オガショウは少し考えていた。情報が足りなかったか。俺は説明を続けた。
「今日は俺 バイトだったんだよ。そして、中西ちゃんもバイトだった」
「ほう」
「俺も中西ちゃんもバイトだったのに、うちに帰ると食事が作られていたんだ」
オガショウは少し首を傾げた。
「まさか、それ、幽霊が作った食事か!? よく誰が作ったかも分からないもんを食べられるな!」
「それがな、いいにおいで……。まだ温かかったし。食べたらめちゃくちゃうまい! プロ並みにうまい」
あ、オガショウがめっちゃ引いた顔をしている。
「これはな、豚味噌なんだよ」
「豚味噌? この辺の郷土料理かなんかか?」
オガショウは長崎出身でこの辺りの地域情報には疎いところがある。ただ、今回は地域情報も地域情報。ニッチな情報なのだ。
「近所に定食屋があるんだよ。そこのメニュー。豚の味噌煮定食。その味、そのまんまなんだ」
「幽霊はその定食屋の親父か」
「俺はたしかに常連だけど、そんな暇なことをする大将じゃない」
そんなに簡単な話じゃなかった。
「しかも、その店は持ち帰りもできるんだ。鍋を持っていったら、それに作ってくれる」
「それなら、誰でその豚味噌を準備できるな。それだけでは特定できないか……」
話はふりだしに戻った。
「とりあえず、明日の昼はその定食屋に行ってみるか」
オガショウの提案でその定食屋に行くことにした。
○●○
翌日の昼に例の定食屋に行ってみたんだ。中々思うようにいかないもので、店の入口には張り紙がされてあった。
『急病のためしばらく入院します。再開は決まり次第お知らせします』
「休みか」
「休みだな」
いつから休みだったのか!? 少なくとも昨日は「豚味噌」が俺の部屋にあった。普通に考えたら昨日までは店は営業していたことになる。
熱々だったので作りたてだと思っていたけど、作られたのは昨日ではなかったかもしれない可能性が出てきた。
それというのも、その貼り紙にはたくさんのコメントが書かれていたのだ。
『大将早くよくなって』
『再開待ってます』
『また豚味噌食べたいです』
こんな感じで10も20も書き込まれていた。仮に昨日の昼に店が開かずに貼り紙がされたとしても、この書き込みの量は多く感じる。
少なくとも数日は経っている気がする。最近はあんまり来てなかったので、どうかしたら1ヶ月くらいは来てなかったかも。
「いつから店が閉じてるのかネットで調べてみるか」
「その手があったか」
貼り紙にあったように「いつから再開」かは不明だ。しかし、「いつから閉店」かはネットを見たら情報があるかもしれない。
「オガショウ、すまん。調べてくれ」
「どうした?」
「充電があと5パーセントだった」
こんなときに充電がないとか……。
スマホで店を探すけど、電池切れ。最近電池の切れが早い。
「今朝も充電忘れたのか?」
「いや、今朝も充電ケーブルはちゃんと差してあった。まあ、俺は忘れて寝落ちしたんだけど」
「また幽霊か」
「ユーレイだった」
昨日は少し晩酌して、寝落ちして目が覚めたのは12時ごろと2時頃、3時頃だったかな……。いい加減起きて布団に移動したんだ。
「それにしては充電が切れるのが早いな」
「それが、朝の時点で充電が60パーセントくらいだったんだ」
俺のスマホとACアダプタでは、残り10パーセントから100パーセントになるまで1時間以上かかるんだ。
夜中のうちにケーブルを差していたら、さすがに朝までには100パーセントになってるはず。
「なんで? ケーブル差してあったんだろ?」
「うん、差したのが朝がただったのかな? まあ、充電のことはいいから!」
今日のユーレイは朝がたに現れたんだな。
「おっと、そうだ……。いや、あんまり情報ないな。3日前の投稿とかあるけど、撮影はもっと前ってパターンもあるだろうしな」
「たしかにー」
結局、調べてみたけどいつからこの定食屋が店を休んでいるのかは分からなかった。多分、3日前くらいからってことだろう。
なにも分からなかったので、俺達はユーレイ候補の【対抗】である、院瀬見 璃々羽先輩のところに行くことにした。