「幽霊の正体は先輩なんでしょう? 院瀬見 璃々羽先輩」
「ちょっ、ちょっと! オガショウ!」
俺達は院瀬見先輩に会うために大学内のカフェに行った。先輩は研究室に行く時間が決まっているらしくて、講義の後よくカフェで時間を潰しているのだ。
「どうしたの? 二人とも。幽霊?」
先輩は鳩が豆鉄砲を喰らった顔をしていた。この時点で俺は「先輩はユーレイじゃない」って分かった。
容疑者①の中野さんのときのようにオーバーキルで恥をかかなくても事実だけを知りたかった。
それでも、オガショウが事情を話した。
「なるほど。じゃあ、きみらは私がその幽霊だと考えているって言うんだな?」
「はい、そうです」
オガショウは元気よく答えた。
「いや、そうでないと困るんです」
「ん? おもしろい答えだな。どういうことだい?」
俺の答えに先輩が興味を示してくれた。
「いやね。その風邪で寝込んだときに看病してくれる子、美味しいお粥を作ってくれて、部屋を掃除して、ゴミを処分してくれる子……それが身近に入れくれたらいいなってのは理解できる」
「はい」
「小川くんの反応は分かるんだ」
そして、先輩は俺の方を見た。
「西戸崎くん、きみの『そうでないと困る』ってのはどういうことだい? 普通なら『そうだったらいいなぁ』じゃないのか?」
たしかに。俺の本心は言葉の端々にまで出ていたのかもしれない。俺は素直に答えることにした。
「だって、困るじゃないですか!」
「おもしろい! 話を聞こう。まあ、かけて」
俺達は先輩のテーブルの空いている席についた。
「西戸崎くん、まずはきみは私のことをどう思ってる? 率直に言ってくれ」
「身長が高くてスラッとしてる」
「うん」
先輩は身長170センチ近い。女の子の中では背が高いほうだ。
「そして、胸がデカい!」
「オガショウ……それは褒め言葉なのか!? むしろ、失礼では……」
俺はビビった。突然の暴言に焦っていた。ところが……
「そうだ! 私の胸はデカい!」
コケた。胸を張って先輩が言うものだから俺は壮大にコケた。この人、普通じゃなかった。そう言えば、先輩はこういう人だった。
「小川くん、私の印象は『長身で胸がでかい』ってことだけか?」
「うーん、『黒髪ロング』と『エロい』もあります! あと、めちゃくちゃ細いです!」
「嬉しいことを言ってくれる。よーし、分かった。『黒髪ロング、長身、ガリ巨乳でエロい』と!」
おいおい、先輩よ。「ガリ巨乳」は日常で出ても問題ない単語なのか!?
「よーし、じゃあ、次だ! 西戸崎くん!」
「は、はいっ!」
「きみの好みの女の子は黒髪ロングか!?」
「そ、そうですねぇ。特にこだわりません!」
急な先輩からの質問だったけど、正直に答えた。
「背は高い子が好きなのか?」
「いいえ! 背は低いほうが好きです。俺より低ければ、まぁいいけど」
先輩は170センチくらいある。俺よりは背が低いけど、もっと低い子のほうが好みかな。
「ガリ巨乳が好きなのか!?」
「ガリはいいですけど、巨乳はちょっと……」
ここで先輩がピタリと止まった。
「エロいお姉さん……は?」
「嫌いではないですが、俺はなにも知らない子に悪いことを教えていくのが好きなので、どっちかって言うと好きの方向の真逆ですね」
先輩が半泣きでオガショウの方をにらんだ。「おい、どうなってんだ」とでも言わんばかりの表情だった。
「先輩、すいません。こいつはロリコンなんです」
「待て! 俺はロリコンではない。背が低くて童顔な子が好きなだけだ」
「そして、ものを知らず、お前の教えこむ悪いことを一般常識と勘違いして覚えていく子だろ? それは、ロリコンで鬼畜だ」
オガショウが俺にきっぱりと言った。
「待て待て待て。俺はロリコンでもなければ、鬼畜でもない」
「うーん、少し話の方向が変わってきたな」
「おい! だから、俺は……」
全くオガショウが俺の話を聞いてくれない。
「とにかく、先輩は西戸崎の家にも行ってないし、風邪の看病もしていない。部屋の掃除もしていない、というわけですね?」
「ううう……急に来られて、告白まがいのことを言われて少し舞い上がったら、急にフラレた……。これはなんだ。なにかの罰ゲームか!?」
先輩が机に突っ伏していじけている。
「私は少しだけ……、ほんのすこーーーしだけ、西戸崎くんのことがいいと思っていたんだ。だから、これ幸いとそのハシゴに上ってみたんだが……」
「見事にそのハシゴを引かれたわけですね。そして、今 床に転がってる、と」
そうなのか。俺としては院瀬見先輩は「エロいお姉さん枠」で見ていた。それは絶対に手に入らない存在だ。
逆に言うと、手に入ってしまったらその価値は目減りしてしまう。
「小川くんの言うとおりだ。私は今、地面に墜落してのたうち回ってる状態だ。さあ、西戸崎くん、『その幽霊が私じゃないと困る理由』ってやつを話してくれないか」
俺は悟った。さっき先輩が言ってくれた「俺のことがちょっと好き」ってのは嘘だ。俺に本音を話させることが目的の嘘だった。こうなったら、俺は話すしかないのだ……。
「『ユーレイ』の正体は今となっては最初から分かってました」
「マジか!?」
俺の告白にオガショウが驚いた。
「話してくれるんだな」
「はい」
俺は、俺の過去を話し始めた。
□
いやー、昨日は昼頃の更新になってしまいました。
すいません。
なかなか生活のリズムが安定せず。
気付けばセットしそこなっていました。
とりあえず、2話くらい書き溜めがあるので、もう少し続きます(^^)