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第13話:ユーレイの正体を捉える秘密兵器

 色々迷走したけど、オガショウがユーレイを捕まえると言い出した。


 これまでに、オガショウはユーレイは実在の人間だと考えているようだった。


 まあ分かる、俺が寝込んだら看病してくれて、お粥を作ってくれて、部屋の掃除をしてくれ、ゴミ出しまでしてくれていた。


 バイトから帰ってきたら夕飯を作ってくれていた日もある。そんなのは普通に考えたら、「お母さん」か「彼女」しかいない。


 しかし、俺としてはユーレイは幽霊だと思っていた。そんな俺の身の回りの世話をしてくれる存在が実在するとは思えない。


 しかも、カギがかかった部屋に易易と入ってきている。ドアに髪の毛を貼ったときもあるが、変わらず易易と入ってきていた。


 そうなると、普通のミステリなどではその子は天井裏に住んでいたなどちょっと異常な答え合わせがあるのだろうけど、うちの場合は天井裏に行く術はないようだった。普通は押し入れの天井の板が外れるようになっている。多分、メンテナンス用だろう。


 この部屋はその板も打ち付けてあって開かなかった。メンテナンス上どうなのかは知らん。開かないのは事実だ。しかも、押し入れにはそこそこものを入れているのでそこから出入りしているようには見えなかった。


 一応「ユーレイ人間説」も考えて4人も候補を挙げたのに、そのいずれも違った……。やっぱり、ユーレイは幽霊だろう。


 そんなことを考えていたら、オガショウが部屋の中を見渡してる。


「なにしてんの?」

「ああ、これだ」


 350ミリリットルの缶くらいの白いものを見せてくれた。


「これは?」

「良い質問だ! これはペットカメラだ。念のためうちのを持ってきてた」


 うちには彼女もいなければ、ペットもいない。


「分かる。その顔は『うちにはペットはいないんだか!?』って顔だ」


 さすがオガショウ。俺のことをよく分かってる。


「これを玄関が見える位置に設置しておく。できるだけ目立たないようにな」


 なるほど、と思った。


 オガショウによると、最近のペットカメラは進化しているのだそうだ。任意の見たいタイミングでライブ映像を見ることができるのは当たり前。


 カメラの前をなにかが通るとそれを自動で録画することができるらしい。しかも、SDカードなどのメディアに保存もできる、と。さらに、設定次第では録画が始まったタイミングでスマホにお知らせを飛ばすこともできるのだとか。


「つまり、あれだな!? ユーレイはペットを連れていると予想してるんだな!?」

「お前、それ本気で言ってるか!? 幽霊自体が現れたらそいつを録画するためだろ!」

「あ! そうか! ペットが映るなら、ユーレイも映る……のか!?」


 忘れていた。オガショウはユーレイを人間だと思っている。ところが、ユーレイは幽霊だ。玄関も通り抜けるようなやつだ。カメラのセンサーが反応するのか……。


 ユーレイに実態があるのならば絶対に玄関を通る。カメラは玄関だけじゃなく、周辺のキッチンとかも画角に入っている。玄関ドアの脇の方から入ってきたとしても絶対に映るのだ。


「このカメラすごいな! もう一台ないのか!?」

「そんなにたくさんあるかよ。うちに犬は1匹だけだよ」


 ワンルームで犬が1匹ならカメラも1個で十分なのだろう。残念だが納得だ。


「じゃあ、あとはお前は普通通りに生活してくれ。俺はバイトに行く」


 オガショウはカメラをセットしたらさっさと帰っていってしまった。


 普段通りにすごせと言われても、カメラがあると意識してしまってぎこちなくなってしまう。しかも、あの玄関を幽霊が通ると思ったらやっぱり怖い。


 俺は冷食の唐揚げを温めて缶ビールを飲んだ。缶ビールはストックが1本しかなかったので、ワイン、日本酒と冷蔵庫に入ってるアルコールをハシゴすることになった。


 ○●○


 独り暮らしで晩酌をする人なら理解してもらえると思うがいつの間にか俺は寝落ちしてた。畳の部屋のローテーブル前で崩れるように寝ていたのだ。


 そして、ユーレイは出たらしい。


 俺の身体にタオルケットがかけられていたのだから。


 ユーレイの姿はカメラに収まっただろう。ただ、その再生方法を俺は知らない。液晶も付いてないし、再生や早送りのボタンもなさそうだ。なんなら電源スイッチすらない。


(ドンドンドン)「さいとざきくーん、あそびましょー」


 あのアホくさい声はオガショウだ。普通に起こしてくれればいいのに……。


 俺は重い身体を起こして玄関に向かった。


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