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第14話:ペットカメラで撮影したユーレイ

「どうだ?」


 オガショウが訊いた。昨日の夜はユーレイがでたかってことだろう。


「すまん、昨日は寝落ちしてしまった」

「そっか。まあ、しょうがないな」


 オガショウはこういうとこがある。別に責めたりしない。本当にいいやつなのだ。とっさの反応がそいつの本心を表すことは多いと思う。


「でも、ユーレイは出た……と思う」

「どういうことだ?」


 俺は寝落ちしたけれど、朝には腹にタオルケットがかけてあったことを知らせた。


「分かった。とりあえず映像を確認しよう」


 オガショウが言った。


 カメラはスマホに接続して、専用のアプリから映像を見るらしかった。オガショウは説明しながら自分のスマホを取り出してアプリを立ち上げた。


「あとはこれで……」


 オガショウの説明通り、やつのスマホに映像が表示された。まずはライブ映像、そして録画されていた動画を再生し始めた。


「あれ?」

「どうした?」


 アプリで確認できるのは2種類の再生方法があるらしかった。センサーに反応してなにかが撮影された部分のみを再生する方法と録画した全部を延々と再生する方法だ。


「センサーが反応した形跡がほとんどない」

「やっぱり、ユーレイは幽霊!?」

「何言ってんだよ」


 オガショウが全部再生のモードに切り替えて再生した。


「……」

「……」


「これ早送りできないので?」


 1倍で再生したら、夜中8時間の動画を見るのに8時間かかってしまう。


「最大16倍速できる」


 ほら、メーカーだってその辺は考えてるのさ。


「じゃあ、16倍で!」

「それがな……いや、まあいいか」


 なにかを言いかけてオガショウがアプリを操作した。8時間も16倍なら30分で見られるのだ。ちょい長いけど、それくらいはガマンだ。


「……」

「……」


「速いな。16倍速。変化があったかどうか判断できん」

「そうなんだよ。早すぎて分からんのだ」


 画面はスマホの小さな画面だ。しかも、アプリの仕様らしく縦固定なのでいよいよ映像は小さい。


「頑張って4倍速が限度で、なにかあったら止めてその辺りをもう一度再生って感じかな」

「思ったより手間かかるな」


 すぐに分かると思ったのに、意外に面倒だった。


 ○●○


 それでも、俺達は半日使って動画を確認した。


「ないな」

「ないな。玄関を通ってないのは間違いない。いや、通ったけどカメラに映らなかっただけか!?」


 その言葉からオガショウはユーレイは幽霊と思っていることが明確だった。昨日、寝ている俺の身体にタオルケットをかけてくれているのでユーレイは確実にこの部屋に出た。


「センサーに反応した分もちょっとだけあったろ? あれももう一度見てみようか」


 カメラの仕組みとしては8時間なら8時間ずっと録画している。そのうち、虫ほどの物が動いてもセンサーは反応して前後5分の映像が別に保存されているのだ。要するにカーナビと同じ仕組みだ。


 今見ようとしているのは保存されていたほう。先にざっくり見たのだけど、玄関ドアは一度も開かなかった。


 だけど、映像が保管されているのだから、画面内で何かが動いているはずだ。それを確かめようという考えだ。そんなことまでしないといけないくらい俺達は情報に飢えていた。午前中いっぱい同じ画像を見続けたからだ。


「……」

「……」


 再び俺達は動かない動画を見始める。こっちはそこまで長くない。さっきよりはしんどくないはず。


「やっぱ変化ないな」

「だな……いや、待て。ここ!」


 俺は映像の違いを見つけた! 動画の内 動いてもいる部分と言ってもいい。


 さっきは見逃したけど、確かに動画として保存されていた部分だ。俺達はその動画のどこが動いているのかをよーーーーーく見てみた。


 そしたら、玄関ドアは開いていないし、その周辺も動いていない。しかし、見切れて映っているキッチンに黒い影が映りこんでいたのだ。俺の外出中でカーテンは閉めていたのでシルエットという感じだろうか。


「やっぱり、これは人間だろ!」


 スマホの小さな画面を見ながらオガショウが言った。


 たしかに、半分身体が透けていたりはしない。ただ、部屋が暗いのと逆光で本当に真っ黒なのだ。


「幽霊……に見えなくもないけど……」

「いや、これは絶対人間だろ! カラクリは分からんけど、お前は女の子に世話をされている! 吐け! まだ候補がいるだろ! 妹みたいなたかり屋と、生真面目なだけでお前に全く興味が無いバイト先の後輩と、長身巨乳の黒髪ロングだけど思わせぶりなことを言うだけの先輩と、詳細エピソードを聞く前に候補から外れる10年以上会っていない幼馴染以外で!」


 めちゃくちゃ限定してくるじゃないか。


「もう、それ以上ないわ。……いや、小3の隣の席の女の子……」

「きゃーーーっか!」


 壮大に却下されてしまった。


「それくらいまで引っ張ってこないと俺の周りに女の話などない……」

「悲しいやつめ……」


 オガショウが肩をガッシリと組んできた。


「その小3の女子はぽっちゃりしていて、当時 他の女子にいじめられていたんだ。ときどき「デブ」とか言われて泣いてた。心の優しい子だったんだよ……」

「分かったから。もう、その名前も思い出せない同級生のことは忘れて……」


 今度は優しく肩をポンポンと叩いてくれた。それは、俺を慰めているつもりか!?


「名前は覚えてる! ……なんか……はかなそうな名前……」

「枯れススキ朽ち子ちゃんとか?」

「お前、絶対バカにしてるだろ」


 俺は額に人差し指を当てて、古畑任三郎ばりに記憶を思い出してみた。


「この動画の幽霊は細身だ。そう考えてもその枯れすすき朽ち子ちゃんとは別人だ」


 あーもう、考え中なのに、横から色々と……。


「思い出した! 儚依 朝露(はかない あさつゆ)だ!」

「たしかに儚い感じだけども!」

「お前のせいで、小2のときに図工室の前のガラスを割ったことまで思い出したわ!」

「お前の記憶力は時として驚異的なんだよな……」


 えらい昔の記憶まで引っ張り出して、俺は疲れた。


「よーし、飯おごってやっから。この間の豚味噌の店に再チャレンジしようぜ!」

「あーーー、大将の病気かケガか気になるしなぁ……」


 この時点では、あの店が開いているなんて思ってもなかったし、オガショウに昼飯をおごらせるつもりもなかったのだった。


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