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第20話:ワープゲート

 謎は概ね解けた。ミステリもののマンガやアニメなら犯人が逮捕されて事件は解決だろう。


 実際、目の前の儚依さんは俺をストーキングしていた。畏怖の対象でしかない。


 普段から俺の生活を覗いていたのだという。しかも、隣の部屋で。たまたま俺はシェアハウス的に部屋を使っていた。そいつは大学を辞めて実家に帰った。


 次に引越してくるやつなどいないし、募集すらしていない。俺自身引っ越して小さな部屋に動くにもそんなカネはない。俺はまだしばらくここにいないといけないのだ。


 彼女はその間部屋に息を潜めて侵入してそこから俺の生活を覗いていた。どんな恥ずかしい場面をみられたかも分からない。


 エロ本とかは今どきないけれど、パソコンやスマホでそれなりの画像や動画を見てそういうことをしていたこともなかったとは言えない。


 それを女性に見られていたと思うだけでトラウマものだ。今後の生活に支障をきたす。


 彼女はドアを使っていなかった。では、どこからこの部屋に入ってきていたというのか。オガショウが言う「ワープゲート」とはなんなのか!?


「ワープゲートのことだろ?」


 俺がオガショウに視線を向けたら俺の心を見透かしたみたいに訊ねてきた。


 マジで俺は考えていることが顔に出る系の男なのかと少し悩み始めた頃、オガショウが隣の部屋に向かった。「ワープゲート」は隣の部屋って事だろうか。しかし、押し入れはオガショウと二人で確認したし、その天井の板が抜けないことも確認した。


「俺達は間違えた方向を見ていたんだ」


 そう言いながら、いつの間にかオガショウが物差しを持っていた。左手にペシペシと当てて手遊びしている。物差しで外に出られるとはとても思えないのだが……。


 儚依さんは何かに気づいたのか隣の部屋に飛び込もうとして襖に足の小指をぶつけ痛がってる。緊迫したムードもどこか霧散した。彼女は「〜〜〜」と声にならない声で痛がっている。ちょっとかわいいと思ったのは気のせいに違いない。


「これは、こうやって使う!」


 オガショウが持っていた物差しを畳と畳の隙間に突き刺した。


「あ!」


 畳が痛むんじゃないかとか、退去時に請求されたらどうしようとか思っていると、オガショウは畳の1枚を少し持ち上げ、そこに手を入れた。


「は!?」

「あ……」


 俺の疑問と儚依さんの絶望の声がハモった。


 次の瞬間、畳を1枚持ち上げた。大掃除でも始める気だろうか。俺なんかここに引っ越して1度も畳なんか上げたことがない。それどころか、実家でもやったことないぞ、と思った。


 しかし、答えはそこにあった。畳を上げた下は通常板が貼ってある。その板に大穴が空いているのだ。地面が見えているので、どうやら基礎の方までつながっているらしい……


「あ……そういうこと!?」


 俺はやっと理解した。玄関扉を閉めたままで家の中に入る方法……この大穴を使えば外から家に入って来ることができる。


 この間、外を調べた時に基礎の通気口の網が1か所だけ外れていた。あの通気口が俺の部屋の近くなら、あそこから入ってくることが……いや、俺では入れない。通風口の大きさはそんなに大きくない。だから、俺はそこに人が入れるなんて考えもしなかったんだ。


 俺は儚依さんをみた。彼女は細い。そして、頭も小さい。頑張ればあの通気口に入れるのか!? 畳の下の穴もそこまで大きい訳じゃない。あんまり大きな穴だと畳の上を歩いたらそこが抜けてしまうだろう。だからか穴の大きさは最低限だ。


 しかも、うまく根太を避けている。床の板の下は根太と呼ばれる梁状の木材が渡してある。重さはその根太が受けるのだ。それを切らずに底の板に穴を開けても床が抜けることはないだろう。


 ここまでつながると、大家さんが中庭で女の幽霊を見たとか言っていたような……。点と点が次々つながっていった。


「なぜ、今日はカギで玄関から入って来たんだよ」


 俺は儚依さんに訊いた。だいぶぶっきらぼうに。


「あのね、オガショウさんに変に思われないように……」


 聞きたかったのは「なぜ」じゃなかった。「どうやって」だ。出所の分からないカギはもやもやするのだ。


「外のガスメーターのところのキーボックスから……」

「そういうことか!」


 儚依さんの自白にオガショウが大きな声を出した。しかし、俺はまだ話に付いていけてない。


「空室のアパートは複数の不動産屋が紹介できるんだよ。入居希望者が不動産屋に行ったら管理会社が外に付いているキーボックスの番号を電話で知らせるんだ。不動産屋の営業はそのキーボックスのカギで部屋を開けて入居希望者に部屋を見せるんだよ」


 オガショウは当たり前みたいに説明してくれたが、合点がいかないことがいくつもあった。


「その『キーボックス』ってなんだよ」

「文字通り箱なんだけど、ダイヤルロックになっていて番号を知らないと基本的に開けることはできない。その箱の中に部屋のカギが入っているんだよ」


 なんだよ。不用心じゃないのか!?


「4ケタの数字を知らないとほとんどの場開かないんだよ」


 また質問してもないのに答えが返ってきた。


「あと、俺が住んでいるんだが!?」

「お前は学生だろ? 数年で引っ越す確率が高い。だから、キーボックスは常に付いているんだよ」


 まあ、実際カネさえあれば引っ越すことも考えていたしな。


「つまり、外のガスメーターのところに『キーボックス』ってのがあって、その中に俺の部屋のカギは入っているってことか!?」

「そうなるな。別に珍しいことじゃない。逆に、ほとんどの部屋にはキーボックスが付いている」


 なんだよ、そりゃ。


「いや、ちょっと待て。その番号は普通知らないよな!? しかも、4ケタって言ったか? 10×10×10×10だから……」

「1万通りだな」

「普通開かないだろ!」


 俺とオガショウが示し合わせたように儚依さんの方を見た。


「その……0000から1つずつ試していって……」


 少し恥ずかしそうに答えた。


 どんだけ時間使ってんだよ! 1万通りだよ!


「どっちにしても、カギは返してもらうぞ! キーボックスのカギは不動産屋に返しておく!」

「あ……」


 オガショウが儚依さんからカギを取り返した。すると、彼女は急に態度がおかしくなった。


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