あれから何日たったかり驚くべきことに、あれから儚依さんは俺の家に居座っている。彼女すらいなかった俺に「住込み彼女(?)」ができた。
そういうのを世の中では「同棲」って言うのか……。あまりに自分からはかけ離れた存在だったのでその言葉が自分に当てはまるとは思わなかった。
「うーす、その後どうだ?」
声をかけてきたのはオガショウ。俺達は今、大学の講義室にいる。まだまだ夏休み続行中だが、研究室の説明会とやらのために学校に来ている。
大学はそういうところがある。なんだかよくわからない招集だ。それらは掲示板の案内かメールでその内容と日時が案内されるので、来た人間だけ内容が説明され、来なかった人間は自分でなんとかするしかない。
今回みたいに重要度が分からない招集は行ったほうが無難なのだ。
まあ、授業じゃないから気楽なもんだけど。
「まあまあかな」
「なんだよ、まあまあって。あの子とはどうなった? 儚依さんだっけ? お前のストーカー」
オガショウの顔が興味100パーセントって感じだ。それでも俺をおいて帰ったからやつなりに危険度は低いと判断したのだろう。
「あれからうちに住んでる」
「はぁ〜!? 一気にそこまで距離を詰めたか!」
そう言われればそうかもしれない。
「なになに、隅に置けない感じ?」
「それが……」(ピコン)
おっとここでメッセージだ。急いで返事を返す。
「なになに彼女からのメッセージ? もしかしてラブラブ?」
「あのな、それが……」(ピコン)
またメッセージだ。
「なに? 急用? ちゃんとメッセージ送っていいよ?」
「ああ、すまん。ちょっとだけ……」
数回のやり取りを続けた。教室は数人の学生がいるけれど、教授などはまだ来ていない。ざわついているから今ならまだメッセージのやり取りは可能だ。
「よし、終わった。あのな儚衣さんは……」(ピコン)
さらにメッセージが来た。
「なんだよ、俺お邪魔?」
「いや、そうじゃなくて、毎日こうなんだ。一瞬でも離れたら……」(ピコン)
「え? また?」
俺のゲッソリ顔を見てオガショウがピタリと止まった。
「それってまさか……」
「そう。付き合うことになった……」
「え!? あの流れで!?」
オガショウがめちゃくちゃ驚いた。その声で一瞬周囲の人が一斉にこっちを見たほど。
「付き合わないと死ぬって言われて……あと、かわいかったし……あと、俺のこと好きになってくれる女の子とか今後、未来永劫現れないとか思って……」
あー……って残念顔のオガショウ。これくらいはっきりしてたら、俺だって言葉に出さなくても言いたいことは分かるぞ。
「ここが重要なんだけど、彼女のこと……好きなのか?」
さすがオガショウ。根幹に関わる質問を的確にしてきた。
「この説明会が終わったらカフェのほうで話すか」
ここでは話せない話もたくさんあるのだ。
***
場所は変わって大学内のカフェに来た。大学自体はまだまだ夏休みだけど、大学の職員の人たちは日々働いている。だから、カフェは営業しているのだ。まあ、大学の部活やサークルの人も利用するだろうからビジネスとしても成り立つのだろう。
「……悪いな。おごってもらって」
さすがに付き合わせて悪いので俺はコーヒーをご馳走した。
「いいんだ。色々付き合ってもらってるし、安いくらいだ」
時間的なものなのか、カフェでは俺達しかいなかった。俺としてはちょうどよかった。
「……で、どうなんだ。実際のところ。ストーカーゴスロリメンヘラは」
ひどいあだ名だ……。
「最初はストーカーとか怖いと思っていた儚依さんだったけど、俺の好みにバッチリマッチしていた」
そう、彼女は元々ストーカーだった。俺を小学生の頃から追いかけていたのだとか。
「じゃあ、付き合うことにしたんだ」
「……まあ」
なにか嫌なことがあったわけじゃない。「付き合う」と言われたらちょっと照れくさかっただけだ。
「それでどうなん?」
「……控えめに言って最高だった」
俺はオガショウに彼女の素晴らしさを語った。
なんと言っても一番は俺のことが大好きでいてくれることだ。
言葉でも好き好きと言ってくれるのはかなり嬉しかった。
あとなんだろう、視線というか目かな。瞳の奥にハートマークでも見えるかのように本当に心の底から俺のことが好きなのが分かる。
今まで彼女がいなかった俺としてはかなり嬉しいのだ。
そして、俺の好みをよく知ってる。さすがストーカー。情報の入手場所と方法は一旦横に置いておいて、かなり俺の好みを知っている。そして、それを心の底から好きになってくれている。
例えば、あの豚味噌。お願いしたらいつでも作ってくれるのだ。他にもかねり料理上手で唐揚げや麻婆豆腐などなんでも料理が美味しい。
部屋は常に掃除されていて、ゴミも出されている。最高の状態だ。最高の彼女なのだ。
……最高の状態なのだ。
でも、俺はこれでいいのか。そう考えるようになったんだ。