「わたしが、コナン君なの? 蘭ちゃんや園子じゃなくて?」
たしかに、子供の頃から悪ガキの男子を相手にして鉄拳を振るったり、財閥令嬢にしてテニス部に所属している
「浴衣の件やSNSの書き込みの件に気付いたのは、キミだしね。それに、こっちは、家事に取り組まなくちゃいけないんだ……助手役で十分さ」
ボクがそう答えると、彼女は、さっきよりも、一層、口元を緩めてうなずいてから、言葉を発する。
「まあ、名探偵ってのも悪くはないか? それじゃあ、光彦。さっそく、今回の事件でわかっていることを教えて!」
いきなり、少年探偵団の一員にされてしまった。しかも、光彦って……。
でも、一人称がボクだし、仕方ないか? それに、名前のモデルは、警視庁刑事局長の兄を持つ名探偵だしな、光彦。そんな風に自分を納得させ、ボクは昨日の憲二さんとの会話で知り得たことをかいつまんで探偵役に説明した。
「じゃあ、わたしと野田くんの推理は合格点に足りないけど、結論として、警察は稔梨が亡くなった理由について、自殺じゃないと考えてるってこと?」
「まあ、ウチの叔父が、ハッキリと断言した訳じゃないけどね。昨日の会話を総合的に判断すると、そういうことになる」
「そっか……わかった。でも、合格点に足りないのは悔しいな」
「その点については、ボクも同感だ。自分たちにしか知り得ない情報を集めて、葛西の身になにが起きたのかを暴いてやりたい。彼女を殺めた人間がいるのだとすれば、なおさらね……」
「ふ〜ん、そうなんだ」
そう、つぶやいた探偵役は、スマホを取り出して、誰かにメッセージを送り始めた。
(誰と連絡を取るんだろう?)
疑問に思っていたボクの心の声に応えるように、メッセージの送信を終えた彼女は語り始める。
「中学時代まで、わたし達と仲の良かった友達に話しを聞けないかと思ってメッセしてみた」
その説明が終わるか終わらないかのうちに、湯舟敏羽のスマホは通話アプリの着信メロディを奏で始めた。
「おはよう、
着信に応答したクラスメートは、通話相手の旧友とあいさつを交わしてから、別々の高校に通うお互いの近況報告に入った。女子の通話というのは、どれもそういうモノなのかも知れないけど……。
二人の会話は、近況報告のあと、猛暑日続きの最近の天候だの、それにともなう体調の話などを経たあとで、
「うっそ〜!」
「マジで?」
という感嘆符をいくつか発し、ようやく、本題に入ったのは、たっぷり5分が経過した頃だった。
そして、肝心の本題に入ると、程なくして、二人の通話は締めに入ることになったようだ。
「うん、うん……わかった。それじゃ、またあとで……」
そう言って、通話アプリの利用を終えたクラスメートは、「ねぇ、聞いてくれる?」と言ったあと、ボクの返答も聞かずに、一方的に、いまの会話の報告会を始めだした。
「敦子ね、最近、付き合い始めた相手が居るんだって! その相手は誰だと思う?」
「残念ながら、ボクには週刊文春の記者の友達は居ないんだ。今日、初めて名前を知った女子の交際相手なんて、想像もつかないよ」
「それが、なんと! ウチのクラスの
「あぁ、そうなんだ……」
たしかに、我が2年3組の鮎川誠一は、身長170センチに満たず高身長な男子生徒とは言い難いけど……。
重ねて言うが、自分たち男子にとって、今日、初めて名前を知った女子の異性の趣味や交際相手のことなんて、
そんな苛立ちがなるべく表情に出ないように気をつけながら、ボクは肝心な質問をする。
「それで、お友達は、葛西のことはなんて言ってたの?」
「うん、敦子も驚いてた」
「そりゃ、驚くでしょ? ただのクラスメートだと思っていたボクだって、彼女が亡くなったと聞いて、ショックだったんだから……おまけに、妊娠までしていたなんて……」
「そのことは、まだ敦子に伝えてないけどね。でも……意外だな」
「ん? 意外ってなにが?」
「野田くんでも、クラスメートの生徒が死んだら動揺したりするんだ? そのわりに、上級生の彼女さんには、ずい分と無神経なことを言っていたみたいだけど?」
「女子から見れば、デリカシーに欠けるっていう自覚があるだけだよ? それでも、クラスメートの別れ話を隣で聞きながら、ニヤニヤしている生徒よりはマシだと思っているけどね?」
「ニヤニヤなんてしてませ〜ん! チクチク言葉の会話が耳に入ってきたから、自分は、フワフワ言葉を口に出すことができるように、口角を上げて口唇筋を鍛えてただけです〜」
なんだ、その意味のわからないフワフワした理由は……? 反論するのもバカバカしくなったため、軽くため息をつく。
すると、ボクのあきれ顔から色々と察したのか、彼女はそれ以上の主張を引っ込めて、新たな要求を提示してきた。
「ところでさ……
「そうかい……探偵団が、助手をこき使うときは、こう言うだけで良いんだよ。『助手くん、着いてきたまえ』ってね」