「えっ!?
「あっ! もう、あそこは壁が設置されて、いまは、みんな別の場所に集まってるんだっけ?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
中学校では同級生だったという女子二人の会話は、ボクにとっても意外に感じられるモノだった。
説明するまでもないかも知れないけど、
ただ、
そんな場所に、大人しい優等生タイプの葛西稔梨が出かけていたなんて……。
そして、彼女の友人の湯舟敏羽も、ボクと同じことを感じていたようで確認するように、ボクたちを招いてくれた部屋の主にたずねる。
「
「うん……誠一くんが言うには、私たちと同じ中学だった金子くんが去年の年末くらいに、グリ下で
「さっき聞いた鮎川くんの友達って金子くんだったんだ……たしか、グリ下に居た子たちって、いまは浮き庭って言うんだっけ? 別の場所に集まってるんだよね? 稔梨は、その場所にも行ってたのかな?」
「それは、わかんない」
情報提供者の伊藤敦子は、そう言って首を横に振った……のだけれど、
「ただ、気になることがあってね……」
と、言葉を続ける。
「二〜三か月くらい前のゴールデン・ウィークの頃だったかな? ガーデンズのツタバの前で、偶然、稔梨に会ったことが会ったんだ。あのコから、『ちょっと話せない?』って言われて、こっちも時間には余裕があったから、ツタバに付き合ったの。そうしたら、稔梨がね『せっかくだから、奢るよ。好きなモノ頼んで』って言うの」
「へぇ、稔梨が? 珍しいね」
「でしょう? あのコ、中学の時から、そういうことにシビアだったじゃない? 私たちと出掛けるときも、お店に入るとき、あんまりお金を使わせちゃいけないなって、稔梨に気を使って入る店を選ばないといけなかったし……それに、ツタバでも『どんどんカスタマイズして良いよ』なんて言って、ガンガン追加注文するの。ほら、これが、稔梨が注文したマンゴーパッションティーフラペチーノ」
そう言って、伊藤敦子はスマホで彼女のSNSのアカウントを表示させる。
そこには、鮮やかなマンゴーイエローの最も大きなサイズのドリンクとともに、カスタマイズしたオーダーが記載されていた。
マンゴーパッションティーフラペチーノ Venti(税込み671円)
・パッションティーを抜いてもらう(無料)
・ホワイトモカシロップを追加(+税込み55円)
・シトラス果肉を追加✕2(+税込み220円)
・ホイップクリームを追加(+税込み55円)
「全部で、税込1001円。こんなに盛り盛りのカスタマイズなんて初めて見たから、写真を撮らせてもらちゃった。まあ、私も稔梨のお言葉に甘えて、抹茶クリームフラペチーノをカスタマイズさせてもらったんだけどね」
そう言って、可愛らしくペロッと小さく舌を出した彼女は、続けて自分がオーダーした抹茶ドリンクの画像を表示させた。
「これでも盛った方だけど、900円は超えてないよ」
葛西の言葉に甘えて、全力でタカった訳では無いとアピールする旧友に、湯舟敏羽は、「あ〜、わかる〜」と、相槌を打ちながら、さり気なく確信に迫る質問をする。
「友だちに奢りたくなるくらい、稔梨はお金を持ってたのかな?」
「それなんだよね〜。私が、冗談交じりで、『なにか良いバイトでも始めたの?』って聞いたら、『敦子にも紹介しようか?』って言ってくるの。それで、『コッチのアカウントで色々と投稿してるから、良かったらフォローして』って言うの。一応、その時アカウントの書き込みは、チラッと見たんだけど、私なんだか怖くなって……気になってた、グリ下のことも聞けなかったんだ……」
伊藤敦子は、後悔するように、最後の言葉を吐き出した。
「そのアカウントは、いますぐ確認できる?」
「ちょっと待ってね……あっ、結局フォローしなかったから、すぐにはわかんないや。気になるなら、調べてあとでリンクを送るけど?」
「ありがとう、お願い! あとは、グリ下で稔梨を目撃した金子くんに話しを聞くしかないか……」
お礼の言葉を述べた湯舟がつぶやくように言うと、伊藤敦子は、またもや意外な人物の名前を出してきた。
「それなら、あなた達と同じクラスの
その言葉に、湯舟敏羽は、とても驚いたようすだった。