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第2章・第14話

 ミナミの繁華街に出掛けていたことで、なにかの事件に巻き込まれたかも知れないクラスメートのことを考えていたとき、不意をつくように問いかけられた質問に驚き、ボクは思わずアイスのチューブを落としそうになってしまう。


「や、やぶから棒になんなんだよ?」


「別に、変なことを聞いたつもりは無いんだけど……昨日、かっちゃんが野田くんの叔父さんと、わたしのママのことについて話してくれたじゃない? それで、気になっただけ? ねぇ、野田くんはどう思う?」


「どう思うって、アイスのこと? さぁ……憲二さん……ウチの叔父とキミのお母さんが付き合ってたのって、大学生の頃だろう? 大学生がパピコを二人で分け合ったりするかな?」


 憲二さんの学生時代と言えば、二十年ほど前なわけで、その頃は、今よりも景気が良かっただろうし、湯舟の母親は、あのユフネ・グループのお嬢様なのだ。大学生にもなって100円ほどで買えるアイスを分け合ったりしないのではないか、とも思うんだけど、湯舟敏羽の見解は、どうやら、そうではないようだ。


「そうかな? ウチのママって、コンビニアイスが好きだから、結構あり得る話しだと思うんだけどな〜」


「キミのお母さんのアイスの好みまでは知らないけど、ずい分と庶民的なんだね?」


「そうだよ! まあ、実際、ウチのママと野田くんの叔父さんがどうだったかは、わからないけど――――――わたしは、大学生になっても、パピコを二人で分け合えるような関係に憧れるな」


「そうか……キミもユフネ・グループのご令嬢にしては、庶民派なんだ? でも、ボクは、そんなキミの方が……」


 そこまで言って、ボクは、口をつぐんでしまう。

 湯舟敏羽は、そんなボクの表情を興味津々のようすで、のそきこもうとしてきた。


「ん? ボクは、そんなキミの方が、なんなのかな?」


 彼女の表情は、さっきまで住宅街の公園でグッタリとして生気を感じられなかったときのモノとは一変し、大好きなオモチャを目の前にした子どものように、ワクワクする感情が抑えられないかのようなエネルギーに満ちている。


「な、なんでもないよ! それより、空が段々と暗くなってきた。雨に降られないうちに、家まで送るよ」


 ボクは、なんだか、おかしな雰囲気になりそうだった空気を打ち壊すように、話題を変える。


「なんだよ、もう〜。思ってることがあるなら、ハッキリ言えばいいじゃん? ――――――でも、まあ、いいか?」


「ん? まあ、いいかってナニが?」


「別に? こっちの話し。二日前に上級生と別れたばかりの男子に告白されても、相手を信用して良いのか、わかんないしね。恋人と別れたあとは、恋の冷却期間も必要でしょう? それに、もう少し、ゆっくりと好きになってもらった方が……」


 最後の方の言葉は、ゴニョゴニョと言葉を濁し、日頃は何事もハッキリと発言する湯舟敏羽にしては珍しく、要領を得ない発言に、今度はボクがたずね返す。


「ん? もう少し、ゆっくりと、どうしたいの?」


「な、なんでもないよ! それより、家に帰ったあとは、どうするの?」


 彼女が、露骨に話題を変えようとしているのは明らかだったけど、それは、お互い様なので、ここで執拗に追及することはしないでおく。


「そうだな〜。聞き込み調査のやり直しをかんがえないとね。明日以降、ボクは、もう一度、仲田に接触しようと思う」


「そっか……わたしは、遠慮しておいた方が良いかな?」


「そうだね、次の聞き取りに関しては、その方が無難かも知れない」


 実際、ワクドナルド店内での会話を思い出してみると、あえてカマをかけるように無遠慮な問いかけを行ったボクにも良くないところがあったことは認めるけど、それ以上に、仲田美幸には湯舟敏羽に対する複雑な感情があるのではないか、と感じられた。


 亡くなった葛西と仲田が、本当はどんな関係だったのか、いまだにわからない部分が多いので、この点については、やはり、仲田自身の口から聞き取るより他に方法は無いと感じる。


 彼女も、一晩時間を置くことで気持ちや頭の中で整理がつくだろうし、今度は、ボクが一人で出向くことで、新たな情報が聞き取れる可能性もある。


「わたしは、なにをすれば良い?」


「クラスの女子を中心に、葛西と仲田の関係について知っている人がいないか聞き取り調査をしてくれないか? あと、期待はできないけど、もし、葛西の異性関係について知っている人がいれば、話しを聞いておいてほしい。

それが、ボクたちが追及する真相に近づく第一歩になるんじゃないかと思うから」


「わかった。やってみる!」


「あぁ、頼んだよ! わかってると思うけど、くれぐれも、こっちの情報収集の動きを仲田美幸に気づかれないようにね」


「うん、それもわかってる」


「じゃあ、お互いにわかったことを情報共有するのは、また明日以降にしよう」


 これで、我が探偵事務所の調査方針は固まった。

 今日のファーストフード店での件もあり、湯舟敏羽には、少しでも身体を休めてほしかった。


 雲の色が、ますます暗くなっていく中、バイクと自転車を取りに戻ったあと、無事に彼女を自宅に送り届けて我が家に戻ると、大きな雷の音が鳴ると同時に、滝のような雨が降ってきた。

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