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ep8.モザイク不可避、猟奇令嬢の性癖裁判~王子の人格、おしりからご退場です~

 私の一声で現れたのは、蛍光紫の毒々しい触手──ぷるぷるとゼリー状に震えるその姿は、内臓系“触手地獄ニクスローム”とはまた違った趣。


 そう、これが私の切り札。

 そして、彼を地獄に叩き落とす道具だった。


 ──だって、ギリギリ生かして、はらわた引き摺り出して縄跳びは“NG”って言われちゃったんだもの。

 ぴょんぴょんしたかったのにっ。


「触手──てめぇふざけんな男相手にそんな需要あるのかよ!」

「あらぁ、あるわよ?」


 私は怒鳴り散らす、ラルヴェン王子にニタリと笑んで、蠢く触手を犬でも可愛がるように撫でた。


「さぁ彼を捕らえて。思う存分になさい」


 私が、そう指示するなり──恐ろしい速さで触手は蠢き、ラルヴェン王子をたちまち捕らえる。


「てめぇ! ふざけんなこのクソアマ!」


 ぬめぬめの触手に拘束されたラルヴェンは強くどやす。

 だが、続いて“人格排泄種ヴォイドレクタ”が彼の背後に静かに迫っていた。もう、その様子だけでニヤニヤが止まらない。


 彼だって、魔法が使える。

 それも、魔力量では私なんか比にならないほど多い。そんなラルヴェンが、魔法ひとつ撃てず絶望の表情で震えてるなんて。

 夜会で触手召喚されるなんて想定外すぎて、脳がフリーズしちゃったのかしら。

 ラルヴェンは絶望で泣きそうな顔をするばかりで、大変愉快だった。


 やばい、超楽しい。最高じゃない。今の私、きっと瞳孔ガン開き。

 悦びのあまり、私はニチャアアとした笑みを扇の下に隠した。


 ──そして次の瞬間だった。

 ドスンと鈍い音が響いたかと思えば、ラルヴェンの目がガバッと見開かれ、即座に苦悶の色に染まる。

 “人格排泄種ヴォイドレクタ”がどくどくと何か送り込むように蠢いているので、どうやら成功したみたいだ。


「ヴィオたん……人格排泄種って言ったけど、あの……」


 アゼルに訊かれて、私はニコリと笑む。


「そのままよ? 身体から人格を全部出すの。どんなクズ野郎でもスッキリ廃人になるわ? 血を出さないなら良いのでしょ?」


 ……まぁ最初に、人間としての尊厳を喪うでしょうけど。と口に含みそうになるが、どうなるかは詳しくは避けておこう。


「ヴィオたん凄いね。どうなってるの? その発想……」

「ううん。なんとなくよ? なんかね。夢で見たの」


 p*xvのタグとか説明しにくい。いや色々ダメだろう。メタ発言、ダメ絶対。


 ──人格排泄。

 私の生きていたあの頃、話題になった異常性癖のひとつ。

 これならば、血も流れないので最も良い方法と思って選んだだけ。


 ちょっと酷いかなって思う。でも。私の可愛い妹に暴力振るうクズ野郎にはこれくらいの仕置きが必要だと思うの。


「で、排泄って……どこから……」


 アゼルの質問に私がニコリと微笑んだ。


「そんなの、からに決まってるじゃない?」


 その言葉を確かと聞いていたのだろう。

 ラルヴェンは暴れ藻掻き──私を涙目で睨む。いやいや、そんなに動いた方が蠕動運動が活発になっちゃうわよ、お馬鹿さん。


 その顔は完全に蒼白。絶望感に歪んでいた。


 ラルヴェン自体はとんでもない美男子だ。それはもう、モデルさんだの男性音楽グループにでもいそうな程のイケメン。

 さすが王族なだけあって、プライドが高そうなかんじの高貴な印象がある。

 そんなイケメンが苦悶の表情を浮かべて、プライドがへし折られる様、私白米三杯は食べられそうです。


「あぁ……あああ、うぐぅ……」


 唇を歪め呻き声を上げて。

 ああ、そうそう。この表情。こういうのが見たかったの。私は広げた扇の中で舌なめずり。


「あぁああ……ふざけんなこのサイコパス! クソ、離せ、やめろぉお!」

「あらぁ~いいの? 出す時は最高に気持ち良くて天国見えちゃうらしいわよ? いいじゃない。だって貴方、私の妹以外ににもフラフラしてる快楽主義者だもの。気持ち良〜く人格出しちゃうの、お似合いじゃない?」


 私は触手に拘束されたラルヴェン王子に近寄り、彼の真っ白な顔を撫でる。

 そしてパチンと扇を閉じると、彼の喉笛に突き付け──


「おら。さっさと、? クズ野郎」


 凄んで言うと、彼の血の気の失せた唇は震えた。

 至近距離で見るその面輪は、まるで白磁。耳を澄まさずとも、ギュルギュルと腹の音が聞こえてくる。もう限界も近いだろう。


 ──途端に彼は号泣した。

 何でもするから、もうこれ以上は許してくれと。謝るから。と、涙を流し、許しを乞う。その様に私の脳汁はドバドバ溢れ出る。


 しかし「何だってするから」と……。

 これで完全に私の勝利確定だ。


「あら。そう? どうしても許して欲しい?」


 改めて訊くと彼は、首を何度も縦に振る。

 タブレットで音声も録音済み。言質は取った。よし名残惜しいが、もういいだろう。


 そうして私が魔導液タブのファイルを閉じると、触手はたちはサッと一瞬で消え去った。

 勿論体内に入ったゼリーだって消えたはず。それでも刺激は消えていないのだろう。

 解放された途端に王子は一目散に走り、どこかへ消えた。

 ……見なかった事にしたいけど、半分くらいおしりが見えていたわ。ええ、しっかり。


 それでも一応、彼の尊厳こそ守られただろう。

 だけど、もう一歩のとこだったのに。私は唇を尖らせて、彼の背中を見送った。


 本当は人格絞り出したかったけれど、アゼルと約束をしたの。

本気で相手が命乞いのレベルで謝ったら止めなさいって。


 ……苦手だったけど。

 私これ、人生初ザマァしちゃったかも。感覚としてはちょっと不完全燃焼ね。

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