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第14話 白刃の中で

ドンッ!!


病室の簡素なスライドドアが、凶暴な勢いで外側から叩き破られた。

薄暗い廊下の奥から、黒いスキー用バラクラバを被った、作業着姿の屈強な男たちが四人、悪鬼のごとくなだれ込んでくる。

全員の手には前腕ほどの長さの刃渡りがむき出しになった鉈(なた)が握られており、鋭く光る刃先が容赦なくベッド上の徹に向けられた。


先頭の男が怒鳴る。

「神宮寺の飼い犬め、死ねやッ!」


その声には、地方訛り混じりの荒々しさと殺意が宿っていた。

真っ白な刃光が稲妻のように閃き、温もりが漂っていたばかりの病室の空気を無慈悲に切り裂いた。


葵は徹の身体に覆いかぶさるように中腰のまま、驚く間もなく、背後から飛んできたブーツの蹴りに狙われる。

――避けられない!


工業用の重たい安全ブーツの裏が、彼女の白衣の背中へと迫る。

その瞬間。


――ゴン!!


肉と骨が硬質な物体と激突する、鈍くて重い音が響いた。


葵の目前で、蹴りが放たれる直前、病床から突き出た手がその足首をがっちりと掴んでいた。

徹だ。


「……えっ……?」


信じられないものを見たかのように、葵はその場に凍りついた。


数秒前まで死にかけていたはずの徹が、いつの間にか上体を起こしていた。

その右手は、まるで鋼の鉤爪のように暴漢の足首を締め上げている。


刹那、徹が顔を上げる。

無影灯の光を正面から受けたその顔には怒りも叫びもなく、ただ冷たい殺意が浮かんでいた。

彼の視界には、すでに病室の壁など存在しない。

すべてが格闘モジュールによる情報空間に変換されていた。


【対象1:足首に骨裂検出】

【対象2:右肘神経叢 = 打撃最適点】

【対象3:刀の軌道 → 力の利用可】

【対象4:動作遅延0.3秒 → 開きあり】


――結論:1拘束、2武装解除、3制圧、4終結!


0.1秒後――


バチン!


最初の暴漢の腕から力が抜け、鉈が葵の足元に落ちた。


「ぐあっ!!」


徹はそのまま休まず、地面に膝をつきつつ、床に落ちた鉈を左手で拾い上げる。

その瞬間、三人目の男が側面から刃を振り下ろす――


ガキィィン!!


徹は奪った鉈で攻撃を完璧な角度で受け止める。


次の一瞬、最初に掴んでいた男を反動を使って放り投げた。

彼の巨体は、横から襲いかかってきた四人目の男に激突。

「ぐっ……!」


これでわずか0.3秒のスキが生まれる。


徹の目が光る。

その一瞬を逃さず、身体をバネのように撓らせて飛び出し――


ヒュッ!


空気を切り裂く、鋭い弧の一閃。

狙いは暴漢の脇腹――だが、刃は寸でのところで逸れた。


ザクン。


斬り裂かれたのは暴漢の腰に装着された金属製の点滴フック。

金属が悲鳴のような音を立てて歪む。


(……深く入りすぎるはずだった……)


刹那、徹の脳裏をよぎる疑問。

通常ならここまでの威力は出ないはず。

格闘精通モジュールが瞬間的な筋力制御を過剰に補正した結果か――


だが、考える余地はない。


最後の男が怯んだ。徹は刃を手放し、空いた左手を掌打に変え、首筋へと叩き込む。


ドスッ!


鈍い音と共に、男は一言も発せずにその場に崩れ落ちた。


――沈黙。


荒い息と呻き声が病室にこだました。


四人の襲撃者。

二人は関節を破壊されて倒れ込み、

一人は腕の神経を潰されて鉈を落とし、

最後の一人は気絶――


発生からわずか五秒。


葵はその場に硬直したまま立ち尽くしていた。

蒼白な顔に、信じられない光景を映したまま。


視線は足元の鉈、そして倒れた暴漢、そして――

背を向ける徹の背中へ。


彼の着ている病衣の背中は緩やかに垂れ下がりながらも、一本芯の通った脊椎のラインを描いていた。


震える声で、彼女はようやく言葉を絞り出す。


「う、上杉さん……今の、あなた……」


徹がゆっくりと振り向く。

そこにあるのは勝者の顔ではない。

極限まで消耗した、空虚な表情。


彼が口を開こうとした、その瞬間――


《ピン!》

【保護行動を検出!対象「浅田葵」感情値大幅上昇!“医療者の献身”が“依存”へ変化!】

【浅田葵の好感度ポイント+15 → 現在:30】

【対象:A級好感度上昇により、使い切りアイテム獲得:[魅力増幅カプセル(強力/2時間)]】

※警告:精神過負荷状態での使用は強い副作用の危険性あり!


だが、電子音が鳴り終わらぬうちに――


外から規則正しい足音と金属の銃声が響き始める。


「動くなッ!武器を捨てろ!」

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