個室に響く笑い声は波のように押し寄せ、私はその中心で、嵐の中の岩のように黙って立ち尽くしていた。
三年の歳月が、こうした浅はかな侮辱を冷たい殻へと鍛え上げ、もはや私の心には一切届かない。
「へえ?たいした才能ね!」
女たちは楽しげに笑いながら、私を値踏みするような視線を投げかけてくる。その目は、好奇心とあざけりに満ちていた。
その時、見慣れない女性がソファの奥から立ち上がり、ゆっくりとヒールの音を響かせて私の前に歩み寄った。
初めて見る顔だ。彼女もこのグループに最近加わったのだろうか。
彼女は躊躇うことなく私の周りを半周し、その鋭い視線で品定めをする。まるで人間ではなく、珍しい展示品か、檻の中の獣を眺めるような態度だった。
「黎子、あんたの“ペット”……本当にそこまで従順なの?」
彼女――エリカは足を止め、星野黎子に興味深そうな瞳を向けた。
「もちろんよ」星野黎子は唇をつり上げ、自信満々に指先で私を呼び寄せる。「こっちに来なさい。」
喉が小さく動き、私は黙ってその命令に従った。
「跪きなさい。」その言葉は冷たく、容赦がなかった。
私は静かに膝をつき、体をぴんと張る。
その瞬間――
冷たい液体が一気に頭上から浴びせられた。ツンと鼻を突く香り。琥珀色のウイスキーが髪に染み込み、額や鼻筋を伝って、高価なウールのカーペットに暗い染みを広げていく。
「見た?」星野黎子は空のグラスを揺らし、誇らしげな残忍さを滲ませて微笑む。「これだけ従順なの。」
彼女の視線は、驚きと興奮に満ちた仲間たちを一通り見渡し、最後にエリカで止まる。
エリカの瞳が、不思議な光を帯びた。
「たしかに面白いくらい従順ね。」彼女は静かに手を叩きながら、じっと私の顔を見つめる。その視線は表面を突き抜けるようだった。「でも……黎子、今夜は彼を私に預けてくれない?」
星野黎子の顔から、一瞬笑みが消えた。
「遠山さん?」驚きと戸惑いが混じった声で言う。「あなたほどの人が、こんなのに興味を持つなんて……?」
軽蔑を装いながらも、怒りが隠しきれない。
エリカは気にした様子もなく、指先で髪をなぞる。
「私はね、従順な男も嫌いじゃないけど――本当に楽しいのは、牙を隠した獣を手なずけることよ。」
彼女の鋭い視線が私の目を射抜き、覆い隠していたものを見透かすようだった。「彼の瞳に、まだ消えきっていない炎を見たわ。それが面白いの。」
冷たい酒が顔を伝う中、そのひと言に私は心の奥がわずかに揺れた。
この女……なんて鋭い目だ。
表面の従順さの下にある、押し殺された激しい衝動を見抜いている。
「遠山さん、やめておいた方がいいですよ。」星野黎子は眉をひそめ、微かな拒絶をにじませる。「この男、加減を知らないところがあるから、粗相があったら困りますし。」
不快感があふれそうになりながらも、必死にこらえている。
このエリカという女、只者ではない。星野黎子がそこまで譲歩するのは、それだけの力を持っている証拠だろう。むしろ、星野家さえも凌ぐ存在かもしれない。
私はただ黙って、この「所有権」をめぐる静かな駆け引きを見ていた。
星野黎子の独占欲は、よく知っている――
自分の“ペット”には何をしても構わないが、他人の手が触れることは絶対に許さない。
けれど、今回は相手が一枚上手の女だった。
「黎子」エリカは一歩踏み出し、相変わらず優雅な態度のまま、しかし有無を言わせぬ口調で言う。「条件を出して。お金でも、あなたが興味のあるプロジェクトでも構わない。値段はあなたが決めて。私は――彼が欲しいの。今夜だけでいい。」
穏やかな名前とは裏腹に、その手腕は毅然としていた。
星野黎子の顔色は見る見るうちに険しくなり、その場で平手打ちを食らったかのようだった。
個室の空気が一気に張り詰め、皆の視線が彼女に集まる。誰もが成り行きを楽しむような目で見ている。
指先が白くなるほどグラスを握りしめ、シャンパンの泡が静かに揺れていた。
長い沈黙が流れ、シャンパンの泡の音だけが微かに響く。
まるで時間が引き伸ばされたようだった。やがて星野黎子は、深く息を吸い込むと、歯の隙間からしぼり出すように言った。
「……分かった。遠山さんが望むのなら、今夜は……あなたに預けるわ。」
彼女は私の方へ鋭い視線を投げつける。その目は毒を含んだ氷のように冷たい。
「森川健太、遠山さんをしっかり“もてなして”きなさい!」その一言一言に、激しい怒りが込められていた。「もしも少しでも失敗したら……分かってるわよね!」
その目は、今にも私を食いちぎらんばかりだった。