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第29話

会議室は水を打ったように静まり返っていた。


「君の言うことは、もっともだ」

凛子の言葉が終わると、修は俯いて軽く笑った。


「何のつもりだ?話し合う気はないのか?」村人の代表が机を叩きながら立ち上がった。


「落ち着け!皆、落ち着いてくれ!」と健があわてて仲裁に入った。


健は凛子に向き直って、「凛子さん、これは長い目で考えるべき問題だ。感情的になっては工期が遅れるだけだ!」と言った。


「感情的?」凛子は首をかしげた。「私のどこが間違っているというの?」


健の笑みが固まった。


「高橋さん、これは……」

女に押され気味のままではたまらないと、彼は修を頼るように見た。


「凛子さんは社長の代理だ。彼女の言葉は社長の意思そのものだ」

修は肩をすくめた。


健は黙り込んだ。


凛子は落ち着き払って座り、まるで茶番劇でも見ているようだった。


「皆さん、この桜庭さんがすべての決定権を持っている。要求があれば遠慮なくどうぞ!」と健は歯を食いしばり、村人たちの方へ向き直った。

「一千万円くれりゃ、墓を移す!」村人たちは目配せし、代表が人差し指と中指を立てた。

「一千万?」修が眉をひそめた。


「移転は村の風水に影響する。これは命の代償だ!」村人は居直った。


凛子は冷ややかな顔をしながら高みの見物気分で、騒がせておいた。


修は凛子に既に対処法があると察し、座り直して成り行きを見守る。


「高橋さん、凛子さん、結局どうすればいいか、教えてよ!」

騒ぎ声が収まると、健は焦った。


「もう少し待って」凛子が微笑んだ。


その笑顔に健の心が揺らぎ、妄想にふけろうとした時、突然携帯が鳴った。


「どうぞ」凛子が静かに促す。


「あなた!車が誰かに壊されてる!康太もどこにもいない!」受話器から泣き叫ぶ声が聞こえた。


「なに!?」健が跳ね起き、ハッと我に返って凛子を睨んだ。


「お前の仕業か?」


「佐藤さん、これで本気で話し合えますか?」凛子のほほえみが深くなった。


「俺たち仕事パートナだろうが!家族を巻き込むとは!」健は電話を切り、顔を歪めた。

「さて?」凛子が首をかしげる。


「君の車を壊したのは俺じゃない!人を間違えてる!」健が怒鳴った。

修が眉を上げた。


「あら?車が壊されたこと、私は誰にも言ってませんよ、佐藤さん?」凛子は軽く笑った。


健の背筋が凍った。

「まさか私達がカネを送りに来たと思ってるんじゃないでしょうね?」凛子の声が急に冷たくなる。


健は脂汗をかき、村人たちを手で追い払った。


「竜也に脅されたんだ!息子を人質に…!」会議室に三人だけになると、健はぐったりと座り込んだ。

「竜也?」修が問う。


「そうだ!墓なんて元から偽物だ!カネをゆすろうとしてる!」健は声を詰まらせた。「一千万円まで下げさせようとしたが…」

「そう?」凛子が机を軽く叩く。「では竜也本人に聞いてみましょう」


健は内心で嘲笑った。


この女、本当に自分を何かと思ってるのか?


その時、ドアがばたんと開いた。


「佐藤さん!黒崎様が何かあったようです!」健の部下が部屋に入って健に言った。

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