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第12話

 それだけ言ってフィーネはリコを連れて城下街へと下り、中央広場にある掲示板を見上げる。


「リコ、どのお仕事がいいと思う?」

「リコ、仕事反対! 反対!」

「どうして?」

「フィーネ、体力ナイ。根性ナイ。無理!」

「し、失礼ね! ちょっとぐらいはあるわよ。多分」


 失礼なリコを無視してフィーネはもう一度掲示板を見上げ、端っこの方に貼ってあった遍歴医の助手募集というのを見つけた。


「これにする!」


 今までは聖女の力ありきだったが、フィーネもまた沢山の人たちを救ってきた。魔王に言われたあとに色々と考えたが、今までしてきた全ての事が見返りを求めてだったのかと言われるとそうではない。


 張り紙に書かれた住所をリコに聞いてそこへ行くと、そこは立派なお屋敷だった。そのお屋敷を見上げてフィーネは思わず息を呑む。


「リ、リコ……大丈夫だと思う?」

「無理! フィーネニハ無理!」

「やれる!」


 無理だと言われるのは何だか癪だ。


 フィーネは思い切って屋敷の門扉を叩いた。しばらくすると一人の女性が怪訝な顔をして姿を現す。


「あ、あの!」


 思い切って女性に声をかけると、女性はキッとこちらを見る。


「遍歴医は立派な医者です! 何度言われても止めません!」

「へ?」


 突然怒鳴られて驚いて目を丸くしていると、女性はそんなフィーネの反応に首を傾げる。


「あ、あれ? 苦情じゃないの?」

「苦情? いえ、私は掲示板の張り紙を見て……」


 あまりの女性の剣幕にたじろぎながら答えると、女性はそれを聞いて今度は顔を輝かせた。


「本当に!? あの張り紙を見て来たの!? 凄い! スタンの言う通りだった! ああ魔王様、こんな私にも加護を与えてくださってありがとうございます!」


 女性は大げさに手を胸の前で組んで言うと、次の瞬間にはフィーネの手を取り屋敷に向かって歩き出す。


 何が何だか分からないままフィーネは女性に連れられて屋敷に入ってしまった。


「あの、今から面接とか……ですか?」

「面接? あー、無い無いそんなの! 遍歴医の助手をしようなんて言う人は相当なお人好しに決まってるから」


 その言葉を聞いてフィーネの背中に冷たい物が流れ落ちていく。これはもしかしたら早まってしまったかもしれない。


「えっと、短期って書いてありましたけど……」

「もちろん長期も募集してるよ! ただ誰も長続きしないから短期って書いただけ。好きなだけ居てくれたらいいよ」

「……なんて言うかこう、とてもおおらかなんです……ね?」


 どう言えば失礼にならないだろうか。言葉を選びつつフィーネが尋ねると、女性はキョトンとした顔をしてフィーネを覗き込んできた。


「もしかしてあなた、魔界に来てからまだ日が浅い?」

「は、はい」

「やっぱり! 魔界は人間界とは違ってあんまり真剣に仕事しないんだ。変な意味じゃなくて、休みたい時に休んで働きたい時に働くって感じ。仕事よりも生活を優先させたいからね」

「……そうなんだ……」


 こんな事は魔族の本に書いてはいなかった。やっぱり書庫に籠もって本を読んでいただけでは分からないものだ。


 フィーネはゴクリと息を呑んで女性に頭を下げた。


「私、フィーネって言います。魔界の事はまだ何も分からないんですが、どうぞよろしくお願いします」

「私はルネ。あなたと同じ人間だよ。これからよろしくね、フィーネ」

「そうなんですか!?」

「うん! ほら、角無いでしょ?」

「……ほんとだ」


 ルチアは満面の笑みを浮かべて手を差し出してきた。その手をフィーネはおずおずと掴んだ。


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