「もちろん助けたが、番に言っておいてくれ。一人で探すことが出来るものを教えてやってくれ、と。でなければあいつは言われれば業火の中だろうが海の底だろうが、平気で取りに行こうとするに違いない」
「……危険予測能力がおかしくなっているのでしょうか?」
「わからん。別に死にたがっている訳ではないようだが、期待されたりすると応えようとするのだろうな」
「なるほど。難儀な性格ですね」
「全くだ。少し自我を持ったと思ったらこれだ。だが良い傾向ではある。聖女とはとても思えないセリフを吐いていたからな」
火刑の最後に呟いたフィーネのセリフと照らし合わせてみても、さっき聞いたセリフはおよそ聖女らしくなかった。
その直後に見せたフィーネの笑顔の意味は分からないままだが、少なくとも少しずつ彼女の中で何かが変わり始めているようだ。
「そうですか。それでどうします? 魔王。フィーネの見張りをまだされますか?」
「そうだな。どうすればあの聖女の仮面を剥ぐことが出来るのか、それを見極めなければ」
「畏まりました。その間の書類はお任せください」
「ああ、頼んだ」
ゼルヴァはそれだけ言って執務室を後にした。自室に戻る途中、フィーネの部屋の前を通ると、部屋の中からリコとイブとフィーネの声が聞こえてくる。
「私は本当に運が良かったと思うんです。これぐらいの怪我で済んだんだもの」
「馬鹿言わないの! 崖から落ちたですって!? おまけに可愛い顔にこんなに傷作って!」
「いた、いたたた! これ、効くんだろうけどしみる!」
「フィーネ実験! 人体実験!」
「本当だね。怪我して丁度良かった。すぐに薬草を試す事が出来たんだものね」
軽やかな笑い声と共にそんな事を言うフィーネの声を聞いて、ゼルヴァはその場を立ち去った。
※
翌日、フィーネは大量のデルクノートを持って意気揚々とルネの元に向かったのだが、ルネはフィーネを見るなり抱きついてきて泣き出した。
「ごめんなさいフィーネ! 私ってばいっつもスタンとデルクノート取りに行ってるからすっかり麻痺しちゃってたみたい! 崖から落ちるなんて怖かったでしょう!?」
「え?」
どういう意味だ? そもそも何故その事をルネが知っているのだろう?
訳が分からなくてフィーネが首を傾げると、ルネは事のいきさつを丁寧に教えてくれた。どうやらスタンレーがリコ達から聞いたらしい。
そんな事よりも……。
「……難易度5……」
まさかの最高難易度に今更になってブルブル震えるフィーネをルネがまた抱きしめてきたかと思うと、新しいメモを握らされる。
「これ! これが難易度低いのだから! もう本当に超低い奴だから!」
「う、うん。ありがとうございます……」
あんな断崖絶壁の難易度が低いだなんておかしいと思った。
苦笑いしながらメモを受け取ったフィーネにルネが気合を入れるように手を叩く。
「さて! それじゃあ今日の患者さんの所に行こっか」
「はい!」
気を取り直してフィーネが頷くと、ルネがいつものように薬箱を背負わせてくれる。
「重くない? 大丈夫?」
「はい。大分慣れました。怪我や病気を治すって、本当ならこんなにも大変なんだなって実感出来ます」
思っていた事を素直に言うと、それを聞いてルネが笑顔で頷いた。
「そうでしょ? だから聖女の力って本当に凄かったのよ。フィーネはその力があった事を誇りに思っていて良いんだからね」
「そう……ですか?」