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第23話

「もちろん助けたが、番に言っておいてくれ。一人で探すことが出来るものを教えてやってくれ、と。でなければあいつは言われれば業火の中だろうが海の底だろうが、平気で取りに行こうとするに違いない」

「……危険予測能力がおかしくなっているのでしょうか?」

「わからん。別に死にたがっている訳ではないようだが、期待されたりすると応えようとするのだろうな」

「なるほど。難儀な性格ですね」

「全くだ。少し自我を持ったと思ったらこれだ。だが良い傾向ではある。聖女とはとても思えないセリフを吐いていたからな」


 火刑の最後に呟いたフィーネのセリフと照らし合わせてみても、さっき聞いたセリフはおよそ聖女らしくなかった。


 その直後に見せたフィーネの笑顔の意味は分からないままだが、少なくとも少しずつ彼女の中で何かが変わり始めているようだ。


「そうですか。それでどうします? 魔王。フィーネの見張りをまだされますか?」

「そうだな。どうすればあの聖女の仮面を剥ぐことが出来るのか、それを見極めなければ」

「畏まりました。その間の書類はお任せください」

「ああ、頼んだ」


 ゼルヴァはそれだけ言って執務室を後にした。自室に戻る途中、フィーネの部屋の前を通ると、部屋の中からリコとイブとフィーネの声が聞こえてくる。


「私は本当に運が良かったと思うんです。これぐらいの怪我で済んだんだもの」

「馬鹿言わないの! 崖から落ちたですって!? おまけに可愛い顔にこんなに傷作って!」

「いた、いたたた! これ、効くんだろうけどしみる!」

「フィーネ実験! 人体実験!」 

「本当だね。怪我して丁度良かった。すぐに薬草を試す事が出来たんだものね」


 軽やかな笑い声と共にそんな事を言うフィーネの声を聞いて、ゼルヴァはその場を立ち去った。


                 ※


 翌日、フィーネは大量のデルクノートを持って意気揚々とルネの元に向かったのだが、ルネはフィーネを見るなり抱きついてきて泣き出した。


「ごめんなさいフィーネ! 私ってばいっつもスタンとデルクノート取りに行ってるからすっかり麻痺しちゃってたみたい! 崖から落ちるなんて怖かったでしょう!?」

「え?」


 どういう意味だ? そもそも何故その事をルネが知っているのだろう? 


 訳が分からなくてフィーネが首を傾げると、ルネは事のいきさつを丁寧に教えてくれた。どうやらスタンレーがリコ達から聞いたらしい。


 そんな事よりも……。


「……難易度5……」


 まさかの最高難易度に今更になってブルブル震えるフィーネをルネがまた抱きしめてきたかと思うと、新しいメモを握らされる。


「これ! これが難易度低いのだから! もう本当に超低い奴だから!」

「う、うん。ありがとうございます……」


 あんな断崖絶壁の難易度が低いだなんておかしいと思った。


 苦笑いしながらメモを受け取ったフィーネにルネが気合を入れるように手を叩く。


「さて! それじゃあ今日の患者さんの所に行こっか」

「はい!」


 気を取り直してフィーネが頷くと、ルネがいつものように薬箱を背負わせてくれる。


「重くない? 大丈夫?」

「はい。大分慣れました。怪我や病気を治すって、本当ならこんなにも大変なんだなって実感出来ます」


 思っていた事を素直に言うと、それを聞いてルネが笑顔で頷いた。


「そうでしょ? だから聖女の力って本当に凄かったのよ。フィーネはその力があった事を誇りに思っていて良いんだからね」

「そう……ですか?」

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