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第26話

 けれど一番驚いているのは母親だ。


「……今、ママって……ごめんね、レネ……気付いてあげられなくてごめんなさい……もう無理しなくていいのよ。ゆっくりでいいの。前みたいにまた一緒にお歌を歌いましょうね」

「あー!」


 母親は涙を浮かべてレネを抱きしめ、レネにも分かるようにゆっくりと話す。そんな二人を見てフィーネは口を開いた。


「多分ですけど、レネちゃんは言葉はまだ話せませんが、理解力はかなり高いと思います。遊びながら言葉を教えるのが良いんじゃないでしょうか」

「そうね、そうするわ。思い返せば私達夫婦は躍起になって言葉を教えて、出来なかったら叱ったりしてしまっていたの。きっとそれが原因だったのね」


 鼻をすすりながらそんな事を言う母親に、ルネがすかさず緩い効き目の副作用も何もない薬草の小分けになった包をいくつか手渡す。


「奥様、これを。解熱が必要な時用に多めにお渡ししておきます。すぐには効きませんが緩やかに効くので。それにこれは常用しても問題の無い薬草で、副作用もありません。疲れた時の栄養剤代わりに大人も使えるので、どうか今晩試してみてください」

「……ありがとう。とても助かったわ。本当にありがとう……」


 ここへやって来た時とは打って変わって随分明るくなった二人にフィーネはホッとして胸を撫で下ろした。


 笑顔の二人に見送られて帰り道、ルネが小さなため息を落とす。


「はぁ……私はまだまだだわ。フィーネみたいに精神からくるものに全く気付けなかった」

「それは違います。私がレネちゃんの事に気付いたのは、前に聖女の力が効かなかった子が居たからです。それを覚えていただけ。もしその経験が無かったら、きっと私もいつまで経っても分からなかったと思います」


 何にでも万能だと思われていた聖女の魔法は、精神的なものには効かない。そのせいで責められた事も何度もある。


 そういう時はその原因が知りたくてあちこち奔走したが、今回それがたまたま役に立っただけだ。


 その事を告げるとルネは一瞬視線を伏せたが、すぐにパッと顔を輝かせた。


「……そうだったの。大変だったわね。でもよく考えてみればそれって最強じゃない!? 今回みたいに医者から放り出された人たちを、もしかしたらフィーネは治せるかもしれないって事でしょ!? 遍歴医の希望の星だわ!」

「え、えっと……そ、そうですか?」


 ルネの言葉にフィーネは思わず目を丸くした。


「そうよ! だって考えてもみて? どんな検査にも引っかからない病気なんて、治療法を誰も知らないのよ? でもフィーネは知っている。さっきみたいに原因に見当がつくかもしれない訳でしょ!? 最強じゃない!?」


 当時は役立たずだと罵られて落ち込んでいたフィーネだが、ルネのように考えればあの時の事も無駄ではなかったかもしれないと思える。


「そ、そう……かも?」


 控えめながらに肯定してみると、ルネは満面の笑みで頷いてフィーネの手を取った。


「最強コンビの出来上がりだね! スタンに教えなくちゃ!」

「最強コンビ……」


 ルネの言葉に苦笑いしつつ、フィーネは俯いて微笑む。


 あの時の事は無駄ではなかった。詰られた事も責められた事も、これからきっと役に立つ。


 そう思うだけで胸のつかえが少しだけ解れた気がした。



 城に戻って今日の事をリコとイブに話すと、二人は手を叩いて喜びフィーネを褒めてくれた。今までこんな風に今日してきた事を誰かに告げたことなどないし、告げた所で褒められた事もない。

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