それはフィーネ自身が誰かを助ける事が当然だと思っていたし、周りもそれが当然だと考えていたからだ。
子どものように話すフィーネにリコとイブは笑顔で頷き喜んでくれる。そんな事が凄く嬉しかった。
「ほらね! やっぱりフィーネは今も聖女なのよ!」
「フィーネ聖女! ソレハ悪イコトジャナイ!」
「そう、なのかな?」
「そうよ! 誰だって自分の存在している意味を探してる。すぐに見つかる人もいれば、一生見つからない人もいる。でもフィーネは誰かを救いたいという使命をもう持ってるじゃないの!」
「でもそれは誰かに認められたいだけなのかも。私自身は今まで空っぽで言われるがまま皆を助けてただけだし……」
「違ウ! フィーネハ空ッポジャナイ! ダカラ魔族助ケテタ! ソンナ事、教会ハ言ッテナイ!」
リコの言葉にフィーネはハッとした。リコの言う通りだ。魔族を助けていたのは教会からの教えなんかではない。ただフィーネが聖女の矜持を勝手に解釈して自らしていた事だからだ。
そのせいで裏切り者の聖女などという不名誉な名前がついてしまったが、その事に関してフィーネが後悔した事はない。
何ならそれだけが唯一フィーネが自ら選んでした事だったのだから。
「私、聖女だからじゃなくて、誰かを助けたいから助けてたのかな」
「ソウニ決マッテル! デナキャ遍歴医ハ選バナイ」
「そうよ。他にも職業は沢山あるのに、結局あなたが選んだのは遍歴医。聖女がしてた事と同じ事を今もしてるって、それはもうあなたがしたかったからよ」
二人に言われてフィーネは頷く。
不意に以前ゼルヴァに言われたセリフが蘇った。
『お前の聖女の矜持とやらは誰かに崇められないと持てないものなのか?』
あのセリフは今もフィーネの胸に突き刺さっている。
夕食時、食堂で久しぶりにゼルヴァと共に席についた。最近はどちらかが何かしらの理由で顔を合わせる事も無かったのだ。
ゼルヴァはやはり苦手だ。そこに居るだけで何か重苦しい沈黙に、いつもフィーネは萎縮してしまう。
無言で俯いて緊張から味のしない豪華な料理を食べていると、ふと長いテーブルの反対側に居るゼルヴァが口を開いた。
「スタンレーに聞いた。ゴードの所の娘を助けたそうだな」
「ゴード?」
突然の知らない名前にフィーネが首を傾げると、ゼルヴァはこちらを見もせずに言う。
「今日お前たちが行った家の主だ。軍の団長でスタンレーとは旧知の仲。覚えておけ」
「……はい」
相変わらず威圧的な態度のゼルヴァにビクビクしながら頷くと、ゼルヴァはさらに続ける。
「そのゴードからお前たちに礼を伝えてくれと連絡があったそうだ。あれから母親は娘と歌を歌い、笑い、食べて寝たそうだ。娘の発熱も無いらしい。力が無い割に頑張ったんじゃないか」
「え……あ、はい」
ゼルヴァの声は冷たくも暖かくも無い。平坦だ。
けれどいつになく言葉は優しい。もしかしてこれは褒めてくれたのだろうか?
そう思いつつフィーネは少しだけ考えて答えた。
「でも私には自分の行動理由が分からないのです。以前魔王に言われたように、もしかしたら私は誰かに崇められたいと思って遍歴医をしているのかもしれません」
むしろリコとイブが褒めてくれた事をあんなにも嬉しく感じてしまった。それはやはり誰かに認められたくてした事になるのではないだろうか。
一度浮上したと思った気持ちが何故かゼルヴァの前では萎んでいく。思わずそのまま俯いたフィーネに、今度はゼルヴァが呆れたようにため息を落とす。
「お前、存外面倒な女なのだな」