「……フィーネ、モット他ノ趣味モ持ッタ方ガ良イ。ソノ考エ方ハ、スタンレート一緒……」
「そうなの? 確かにスタンレーさんっていつ見てもお仕事してるものね」
「結婚スルマデモット酷カッタ!」
「そうなんだ。ルネさんに出会ったから?」
「ソウ。ルネヲ拾ッテ、スタンレーハ変ワッタ。愛ハ偉大」
「魔族に愛を教わるなんて思ってもいなかったって、前の私なら思ったかも。でも今は魔族の方が愛情深いんじゃないか、なんて思うよ」
長い年月を生きる魔族には、人間とは違う愛し方があるのかもしれない。
聞けば魔族は一度番を決めると、離縁などは絶対にしないという。死ぬまで伴侶を変えないそうだ。
「でもルネさんとスタンレーさんでは寿命も違うのにどうするの? 不幸な結果にならないの?」
「ナラナイ! 魔族ノ寿命ガ長イノハ長命石ノオカゲ!」
初めて聞く石の名前にフィーネは首を傾げたが、リコはもう眠いのかフィーネの首筋に顔を埋めてムニャムニャ言い始めている。それにつられるように思わずフィーネも小さな欠伸を一つ落とした。
※
ゼルヴァはまたフィーネの影に入り込んでフィーネの行動を監視していた。
「……よく動く女だな。休みなら休みらしく部屋で寝ていれば良いものを」
自分なら間違いなくそうする。そう思うのに、フィーネはただの少しも休まない。
今日は遍歴医を始めてから初めての休暇だと言うのでゼルヴァはてっきり読書でもするのだろうと思いこんでいたのだが、朝食に現れた時のフィーネの格好を見てその考えは捨てた。相変わらずあの貫頭衣を着ていたからだ。
案の定フィーネは朝食が終わるなり、そそくさと屋敷を出て行ったのでゼルヴァは急いでフィーネの後を追いかけて影に潜り込んだ。
「ルネも似たようなものですよ。人間というのは働き者が多いですね」
今日影に潜り込んでいるのはゼルヴァだけではない。珍しくスタンレーもついてきている。
フィーネの狭い影の中を大の男が二人並んで歩くのは非常に歩きづらいが、どうしてもついてくると言って聞かなかったのだ。
「お前は他人の事言えないだろう?」
「それは魔王もでは? ご自身の休みもこうやって潰すのですから」
「別に好きで潰している訳ではない。こいつが大人しく部屋に居てくれたら私も休めるのだがな」
呆れたように言うと、スタンレーが何か言いたげに肩を竦めた。恐らくスタンレーもそう思っているに違いない。
「それで、これはどこへ向かっているんだ?」
「この方角ならリトクア草でしょうね。農村のどこにでも生えているメジャーな薬草ですよ」
「それは買えば良くないか?」
「私に言われましても……」
と、その時、まるでゼルヴァ達の会話が聞こえていたかのように、フィーネにくっついてきていたリコが声を上げた。
「リトクア草、売ッテル! ワザワザ採ラナイデイイ!」
「でもリコ、私お金が無いのよ」
「……ソウダッタ。フィーネ、タダ働キ……」
悲しげにそんな事を言うリコにゼルヴァは首を傾げる。
「おい、スタンレーどういう事だ? あの女は無償で遍歴医をしているのか?」
「ルネ曰く、教わっている間はお賃金なんて貰えないと言われたらしいですよ」
「……あの女はもしかして馬鹿なのか?」
フィーネはゼルヴァが思っているよりもずっと生真面目で面倒な性格なのかもしれない。どこまでも面倒な女だ。そしてなるほど、確かに聖女だ。
ゼルヴァは大きなため息を落とす。
「あの女から聖女の仮面を剥ぐというのは土台無理な話だったのかもしれん」