西洋美術史Ⅱ~疑惑の成績~(2話)
いままつ
「リサーチ? 何をすればいいんですか?」私は一九二センチメートルの巨躯に問う。
巨躯は「まず訊く。試験はペーパーテストだったか? レポートだったか?」
私たちは声をそろえて「レポートです」と返答した。
巨躯は「そうか。お前らは手分けして、可能な限り多くの『西洋美術史Ⅱ』を履修した学生を探し出しコンタクトを取るんだ」
「そうか。もしかしたら私たち以外にも不可思議に『F(不可)』になっている人がいるかもしれないですからね」
巨躯は頷く「そうだ。俺と拓哉は別のアプローチをして証拠をかき集めたいと思う」
別の証拠?
「以上、とりかかれ」
「ラジャー」そう言うと、私たちは蜘蛛の子を散らすように部室を出た。今日は成績開示日。春休みでも大学のあちらこちらに学生の姿があった。
***
私は生協で買ったビスケットを乗せた皿をテーブルに置いた。ビスケットは二十枚百円の安物だが、せめてもの思いで、私特製の生チョコレートソースが付けていた。
「わーい、ミホちゃんのビスケットだー……ウマ!」
飛鳥先輩も「あらほんと」と言う。
みなビスケットをモグモグ。いつからハムスターのような部活になったのだろう。
私は「褒めていただけるのは嬉しいですが、話を進めましょう。円先輩」
円先輩はビスケットに伸ばした手を止め私たちを見た。それからカバンから一枚の紙を取り出した。その紙に私たちは見覚えがあった。
「これは『西洋美術史Ⅱ』のレポート課題だ。担当は巾(はば)義男(よしお)教授。俺も講義を受けたことはあるが、硬すぎず、分かり易い講義を行う人だ。レポート課題によると、
① 新古典主義について活躍した画家を例に挙げて説明しなさい。
② 印象派についてその特徴を踏まえて説明しなさい。
③ 二十世紀美術及び現代美術についてどのような特徴が挙げられるか述べなさい。
以上の三設問から二設問を選んで答える、でいいな?」
「はい」私たち四人は応える。
由里「円先輩が睨んだ通りでした」
カンナ「彫刻科の学生も同じでした」
「つまり、ほとんどの学生が『西洋美術史Ⅱ』の評価が『F(不可)』だったんですね」
円先輩は「うむ」と言うと「巾教授は滅多に負荷を出すような先生ではないんだが……俺も証拠を手に入れた。これから乗り込むぞ」
(続く)